雲ノ平アルプス庭園

雲ノ平 山行記録 #2/4

2002年8月15日 - 18日


いよいよ雲ノ平を歩く日。薬師沢から雲ノ平までの登りは手強いが、雲ノ平の光景はそれ以上の価値がある素晴らしいものだ。早めについて午後の時間たっぷりと眺めを堪能できた。

第1日 (8月15日) 折立 → 太郎平小屋

第2日 (8月16日) 太郎平小屋6h00m → 薬師沢出合7h10m → 薬師沢小屋9h00m → アラスカ庭園12h10m → 雲ノ平山荘13h40m

第3日 (8月17日) 雲ノ平山荘 → 黒岳(水晶)→ 三俣山荘

第4日 (8月18日) 三俣山荘 → 新穂高温泉

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第2日 (8月16日)

 

太郎兵衛平からの眺め

太郎兵衛平からの眺め

2h00m頃に一旦目が覚める。窓から眺めると星が出ているので、外に出てみる。天の川がくっきりと見え、薬師岳の稜線からおうし座・ぎょしゃ座が昇ってくる。富山の夜景も見えた。一通り星空を堪能してから再び眠りに就く。
4h30m頃に起床。朝食前に荷物の整理をし、5h00mにMを起こして朝食のため食堂に行く。雲量は多いが雲ノ平方面は明るく、天気の心配はあまりしないでもよさそう。小屋前の広場は出発の準備をする登山者でにぎわっており、我々も写真を撮ってから6h00mに出発。
太郎兵衛平と雲ノ平は標高が2300m程度とほとんど同じなのに、黒部川岸の薬師沢小屋(標高1920m)まで一旦下ってから登り直さないと行けない。Mが「橋を架けてほしいよ」などとぼやく。徐々に雲が少なくなって日が射してきた。めざす方向に黒岳(水晶)や雲ノ平・祖父岳がはっきりと見える。

薬師沢出会までの急降下も、我々ガンバラナイ中年組は実にゆっくりと歩む。中高年のパーティに何度か追い抜かれるが、気にしない。筋肉痛は主に下り道で起こることを知っているからだ。歩幅をなるべく細かく取って、筋繊維断裂を起こさないよう気をつけて歩く。
7h00m頃に薬師沢の川べりに出ると、しばらく平坦な沢沿いの道を進む。薬師沢出会いの当たりで、左俣の沢にかかる丸太の細い橋を渡るところはスリル満点だ。「落ちたら命がナイアガラ」という金鳥のナンセンスなCMを思い出す。

 

薬師沢出合付近の丸太橋

薬師沢出合付近の丸太橋

 

巨大ヒルに遭遇

巨大ヒルに遭遇

丸太橋を過ぎてお花畑の木道にあるベンチで休憩。スキムミルクと「手軽にカテキン」(煎茶を粉末にしたもの)を混ぜて水で溶いたものを飲むが、あまりおいしくない。抹茶とは違うのでスキムとは混ぜない方がよかった。ここで抜いていった二人連れに「薬師沢ってまだですか」と聞かれたのでMが「もう過ぎましたよ」と答える。さらに単独行の登山者が追いついて休憩をとりながら同じことを聞くので、私が「もう過ぎましたよ」と同じことを答える。なぜみんな地図を見ないのだろうか。さらに「薬師沢小屋までどれくらいかな」と関西弁で聞くので、「あと30分くらいでは」と言う(実はここから40分以上かかったのだが)。この単独行の男性(ほぼ同世代に見える)とはこのさき行程がほとんど同じで、何度も出会うことになる。
濡れた木道は滑りやすく、二人とも一回ずつコケてしまった。木道が切れたところで長細いヒルを発見。Mは「ミミズでは」と言うが、このグラデーションのついた色といい円形の口といいヒルに間違いないと思う。「カッコいいヒル!」と思うのは異常であろうか。

 

薬師沢小屋にて休憩

薬師沢小屋にて休憩

木道と泥道が交互に現れる中を進んでいくとカベッケガ原の湿地帯に出た。笹が生い茂っており、「パンダ放牧に最適」などとバカなことを言う。その先のちょっとした急坂を降りきると薬師沢小屋で、9h00mに到着。
小屋は薬師沢が黒部川に合流する地点に立っており、水量豊かな川面から涼風が吹いて気持ちよい。小屋の前のテラスで休憩がてらエネルゲンの粉末を水に溶かしていると、さっきの単独行者にまた会った。「結構きつかったね」と言われたので、「30分くらい」と適当なことを行ってしまったことをつい詫びる。
黒部川にかかる吊り橋を渡って、雲ノ平への急登に踏み出す。この傾斜はとてもきつく、かつ長い。アラスカ庭園までの標高差は500m以上あるので、無理をせず時間をかけてゆっくり進むのが途中でバテない秘訣だ。Mに「心拍数90を守ろうね」と言うと「無理だって。とっくに90を越えてるんだけど」と返されるので、「では90まで治まるのを待ってから次の一歩を踏み出そう」「それじゃ今日中に着かないんですけど」とおバカなやり取りをする。途中で中高年8人くらいのパーティに追いついてしまうと、「若い人は速いからお先にどうぞ」と譲られる。若くも速くもないんですけど。案の定、こちらが小休止している間に抜き返された。これでいいのだ、こちらも似たようなペースでゆっくり歩いているのだから。

 

雲ノ平への急登で

雲ノ平への急登で木イチゴを摘むM

急登が始まってから2時間、道がなだらかになって木道が現れた。黒部五郎岳や薬師岳も見えるようになり、樹林帯を抜けた。ガンバらなくてもいつかは到着するものだ。植生はハイマツが中心となり、さらに視界の開けたところ12h10m頃に出た。ここが「アラスカ庭園」だ。黒岳(水晶)も見えている。どうしてここが「アラスカ庭園」と名付けられているのかは不明だが、ともかく昼食だ。サラダ用スパゲティを茹で、ペペロンチーノソースをかける。茹汁はワカメスープにし、食物繊維を補給すべく海藻サラダをスープに投入する。食事中に、さっきの単独行者が追いつき、山座同定を尋ねてくる。テント泊の荷物で山のベテランのように見えるのに、「あれが黒部五郎ですか、へえー」なんて素人風に言うのはなぜだろう。食後のデザートに羊羹をとり出すと、Mから「よくそんな重いもの持ってくるな」と言われる。アラスカ庭園からは祖母岳が小さな丘に見え、「登頂意欲の湧かないピークだなあ」などと私が言うが、単独行のお兄さんは「荷物置いて往復してきますワ」という。

 

アラスカ庭園にて昼食

アラスカ庭園にて昼食。赤いTシャツの単独行者とはこの先しばしば出会うことになる。

 

雲ノ平の木道

雲ノ平の木道をゆく。黒岳(水晶)が迫る。

 

祖母岳山頂

祖母岳山頂の「アルプス庭園」

雲ノ平山荘までの道はハイマツや草原の中の木道で、視界が開けてとても気持ちが良い。日本にもこんな場所があったのか、と感嘆する。ここには「奥日本庭園」の名が付いていて、水晶岳がよく見える。薬師岳の先の方にとがった岩峰が見え、そのときは劔岳かと思ったのだが、後で確認すると立山だったらしい。さらに進むもだんだん雲が空を覆ってきた。祖母岳への分岐にたどり着き、せっかくなのでここに荷物をデポして空身で登る。チングルマの群落はほとんどが花の散った後の穂になっていたが、この斜面にはまだ花の残る株もあった。祖母岳の山頂は「アルプス庭園」の名が付いており、池塘の散在する湿原で美しい場所だ。「登頂意欲が湧かない」などと言った不明を恥じる。単独行のお兄さんが追いついてきたので、お互いに記念写真のシャッターを押しあう。雨がぽつぽつと降ってきたので速足に戻るが、すぐに止んだので一安心。雲ノ平山荘には13h40mに到着。
受付で宿泊の申し込み用紙に必要事項を記入して明日の朝食の時刻を確認した後に、「明日の朝食はどうしますか」と再び聞かれたので、「お願いしますって言いましたよね」と答えると、「あっ、しまった…不覚です」などととぼけた応対が面白い。小屋は混むようで、二人で布団一枚を暫定的にあてがわれた。夕方に宿泊人数が確定したら再配置するそうだが。2階の大部屋にはすでに10名程の客がいる。これで二人で布団一枚の詰め込み具合では荷物を置く場所にも困るほど狭い。
夕食までまだ先なので、テラスでまずは乾杯。小屋の前に広がる湿原は「ギリシャ庭園」というそうだ。

 

雲ノ平山荘前のテラスで

雲ノ平山荘前のテラスで乾杯。
「この紋所が目に入らぬか〜」

 

祖父岳方面を眺める

小さな丘の頂から祖父岳方面を眺める

 

雲ノ平でのんびり

雲ノ平でのんびり

さらに、奥スイス庭園に行こうと提案する。山荘から見えていた丘の頂にまずたどり着く。ここから見ると、奥スイス庭園へは一旦谷底まで下ってから登り返さないと行けないことが分かる。下り始めたものの、道がぬかっているし先は長そうなので途中でくじけ、丘の頂へ引き返す。頂にある巨石に登ってしばしのんびりと過ごす方が楽しそうだ。目前にそびえてるは水晶岳。ワリモ岳や祖父岳も間近に見え、祖父岳の肩には鷲羽岳が姿をのぞかせている。雲ノ平山荘の向こうには逆光線に浮かぶ黒部五郎岳。三俣蓮華岳との間の鞍部には笠ヶ岳も見える。この角度から見る笠ヶ岳は細身の美しい姿だ。付近のハイマツの実をホシガラスがついばんでいる。山荘に続々とパーティが到着しているのを眺め、「やっぱり混雑するんだなー」と思う。関西弁のおしゃべりがこんなに遠くまで届くとはうるさいな、と思っていたら、Mが「♪きっと君は関西人…」と嘉門達夫の替え歌を歌い出した。広大な風景を十分堪能した後に小屋に戻る。
夕食後に夕立があり、そこに夕陽がさしてオレンジ色の不思議な光景。布団の上でMとだべっていると、受付をしていたお兄さんがやってきて「えー雨上がりのデカダンな夕陽の中、部屋の再配置をはじめます…」と口上を述べ始めた。このお兄さんの言動は何かと個性的かつ退廃的なので、「デカダン君」と命名。結局三人で布団2枚を分け合うという配分になった。

 

ホシガラス

ホシガラス

このように混雑するときは早めに寝るのが勝ちなのだが、向かいの列のおしゃべりが耳栓を通り抜けるほどうるさいの注意する。でも、小心者の私が他人に注意なんてすると、緊張して眠れなくなってしまう。うとうとはするものの眠れない。それに人いきれで暑い。20h頃に食堂に行って本を読む。小屋の本棚にあった「山小屋はいらないのか」という本で、小屋のオーナー伊藤正一さんの著書だ。雲ノ平一帯の木道がよく整備されているのは伊藤氏の仕事だということがわかり、感謝の念と業績の偉大さに圧倒される。ホットミルクを飲んで気分を落ちつかせようと思ったが、すでにオーダーストップのようだ。やがて消灯時間の21hが近づいたので食堂を出る。ふと玄関から外を見ると星がいくつか見える。星見をしながら涼もうと玄関に出ると、従業員の男性一人と女性3人も星を見ようと出てきた。星座について説明したり、小屋の仕事の大変さについて話をした後に戻って眠りに就く。

初出 : 2002年8月25日, 最終更新日 : 2003年12月6日

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