PLフィルター

偏光フィルターの功罪

2004年3月4日


風景写真のコントラスト向上に便利な偏光フィルター。使いこなすには原理を知っておいた方がいいでしょう。特に、太陽高度の低い冬には要注意です。

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下の2枚の写真は、同じ場所からほぼ同じ時刻に、同じカメラ・レンズ・フィルムを使って撮影したものです。見た目が大きく違っているのが分かるでしょうか?特に、背景の空の色や明るさがずいぶん違っています。実は、左側はフィルター無しで撮影したのに対して、右の写真は偏光フィルター (Kenko PLフィルター) を使用したものです。このように、偏光フィルターを使用すると風景写真のコントラストを高くすることができます。

No fileter

【写真1】フィルター無し, Nikkor 50mm F1.4 (F2.8)で撮影

PL fileter

【写真2】偏光フィルター (Kenko PL 52mm) 使用

偏光フィルターは、光の振動方向のうち一方向の成分だけを透過する性質があります。光は電磁波の一種で横波ですので、振動方向は進行方向に垂直な面内のあらゆる向きが可能です。自然光はこの面内に一様に振動方向成分が分布しています。このような状態を無偏光といいます。右図の入射光の状態がそれです。
偏光フィルターは、細長い分子や結晶などが向きを揃えて配列しており、その方向に沿った振動成分だけを透過する性質があります。理想的な偏光フィルターの場合、入射光がフィルターの向きと同じ方向に偏光していたら透過光は入射光と全く同じであり、入射光がフィルターと垂直な向きに偏光していたら透過しません。無偏光の光が入射した場合は、半分がフィルターに沿った成分、半分がフィルターと垂直な成分ですので、透過光の強度は入射光の半分です。

偏光フィルターの性質

【図3】偏光フィルターの性質。光の振動方向のうち、一方向の成分だけを透過します。

もし入射光が無偏光だったら、偏光フィルターは単に光の強度を半分に弱めるだけのように見えます。でも、入射光が無偏光だけでなく偏光した光が混じっていたら…
偏光の向きと平行にフィルターを揃ると、透過光 = 0.5 × 無偏光 + 偏光
偏光の向きと垂直にフィルターを回すと、透過光 = 0.5 × 無偏光
と、フィルターの向きによって偏光成分を強調したりカットしたりできるのです。

大気中のレーリー散乱

【図4】大気中のレーリー散乱と偏光

それでは、偏光した光が混じるのはどのような場合でしょうか。実は、青空は偏光しているのです。空が青く見えるのは、太陽からの光線が大気中でレーリー散乱してから目に届くからです。レーリー散乱とは分子や原子が持つ電子が入射光につられて振動するために起こる散乱で、波長が短いほど(周波数の4乗に比例して)散乱を起こします。青い光は波長が短いので選択的に散乱されるので、空が青く見えるのです。そして、レーリー散乱された光は強く偏光するという性質があるのです。
もし大気が無くて散乱がなかったら、昼間でも空は真っ暗で星が見えることでしょう…大気の無い月面ではこのような空です。空が明るく青く見えるのは、レーリー散乱を受けた光を見ているからです。その散乱光は偏光しているので、偏光フィルターを使うと空の明るさを強調したり減光したりできるのです。

右の図5は、光源からの離角と偏光度・方向の関係を示したものです。太陽からの光が大気中で一回だけレーリー散乱してからカメラに到達する、というモデルの場合、偏光度は離角θに対してsin2θに比例します。また、偏光の方向は常に光源と垂直方向ですので、太陽を中心とした同心円状に偏光するわけです。θ=90°で偏光度は最大になります(モデルでは100%の偏光ですが、実際には多重散乱などがありますから100%とはなりませんが)。
この性質を利用して、偏光フィルターでレーリー散乱光をカットすることで空を深い紺碧に写し出すことができます。冒頭の写真は、この効果を利用しているのです。太陽が南東方向にあるときに、富士山を北東方向から撮影したもので、ちょうど散乱角が90°に近くて強く偏光しているため、偏光フィルターの効果が如実に現われています。
青空の他にも、水面やガラス面などでの境界面反射も偏光しており、その偏光の度合いは反射面の屈折率と反射角に依存します。水の中にいる魚を撮影するときや、ショーウィンドウの写り込みを押さえたい時などに、偏光フィルターは威力を発揮します。釣り人が偏光サングラスを使うのはこのためですね。

太陽角と偏光度

【図5】光源(太陽)からの離角と偏光度・方向の関係。矢印が長さで偏光度を示しています。偏光の向きは常に光源と垂直方向なので太陽を中心とする同心円状に偏光し、その偏光度は離角90°で最大になります。

ただし、偏光フィルターを使用した写真2をよく見てください。写真左上隅が最も暗く、右下に向かって明るくなるという斜め方向のグラデーションが付いていて、不自然です。一方、フィルター無しの写真ではグラデーションが高さ方向に付いていて自然です。偏光度が太陽からの離角に依存するために、偏光フィルターを使うとグラデーションが現われるのです。
真夏の正午、太陽が天頂近くにあるときは、太陽からの離角が天頂角とほぼ一致するので、偏光フィルターを使ったときのグラデーションが自然になるでしょう。地平線方向が離角90°ですから、偏光フィルターの効果が最大に活かせます。一方、冬は太陽高度が低いですので、離角一定のラインが水平線に対して大きく傾きます。冒頭の富士山の写真は冬至の前日に撮ったものですので太陽が低く、斜め方向の不自然なグラデーションが付いているのです。
望遠レンズを使用している場合は画角が狭いのでグラデーションは気になりませんが、広角レンズを使うときには要注意です。偏光の向きを知るには、図5を参考にしてください。
なお、オートフォーカスのカメラではボディ内部で偏光フィルターを用いて光路を二分割し、視差によって焦点を合わせる、というタイプのものがあります。このようなカメラの場合、直線偏光フィルターをレンズの前に用いるとオートフォーカス機構がうまく働きません。そのようなオートフォーカスカメラでは、サーキュラーPLフィルターを用いてください。サーキュラーPLとは、直線偏光フィルターの直後に1/4波長板を挿入して直線偏光を円偏光に変換する機能をもったフィルターです。直線偏光から円偏光に変換するしくみについては、こちらのページもどうぞ。

偏光フィルターの重ね合わせ

【写真6】2枚の偏光フィルター重ね合わせ。ノートパソコンの液晶画面の手前に1枚目の大きな偏光フィルターを、偏光の向きを液晶と直交させて置くと、全く光を通さないので真っ暗に見えます。ところが2枚目の小さな偏光フィルターを45°の偏光の向きで挿入すると、そこだけが透けて見えます。

蛇足ですが、偏光フィルターを2枚と液晶モニターを使って、簡単な理科実験ができます。液晶モニターはガラスパネルの内側に偏光フィルターを用いており、画面の光は直線偏光しています。そのため、偏光フィルターを通して液晶モニターを見ると、偏光フィルターの向きによって画面の明るさは大きく変化し、向きが直交すると真っ暗に見えます。ところが、この1枚目のフィルターと液晶モニターとの間に、2枚目の偏光フィルターを45°回転させて挿入すると、あら不思議、挿入した部分が透けて見えます(写真6)。ところが、2枚目と1枚目のフィルターの順序を入れ替えると、まったく透けず、真っ暗なままです。
普通、フィルターを通した光の見え方は各フィルターの透過率の掛け算で決まりますので、フィルターの順序を変えても見え方は変わらないはずです。しかし、偏光フィルターは順番によって結果が異なるのです。どうしてでしょうか?その答えは…
アニメーションによる説明はこちら
数式による説明はこちら


最終更新日 : 2004年3月12日

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