偏光フィルターの功罪2004年3月4日 風景写真のコントラスト向上に便利な偏光フィルター。使いこなすには原理を知っておいた方がいいでしょう。特に、太陽高度の低い冬には要注意です。 |
下の2枚の写真は、同じ場所からほぼ同じ時刻に、同じカメラ・レンズ・フィルムを使って撮影したものです。見た目が大きく違っているのが分かるでしょうか?特に、背景の空の色や明るさがずいぶん違っています。実は、左側はフィルター無しで撮影したのに対して、右の写真は偏光フィルター (Kenko PLフィルター) を使用したものです。このように、偏光フィルターを使用すると風景写真のコントラストを高くすることができます。 |
偏光フィルターは、光の振動方向のうち一方向の成分だけを透過する性質があります。光は電磁波の一種で横波ですので、振動方向は進行方向に垂直な面内のあらゆる向きが可能です。自然光はこの面内に一様に振動方向成分が分布しています。このような状態を無偏光といいます。右図の入射光の状態がそれです。 |
もし入射光が無偏光だったら、偏光フィルターは単に光の強度を半分に弱めるだけのように見えます。でも、入射光が無偏光だけでなく偏光した光が混じっていたら… |
それでは、偏光した光が混じるのはどのような場合でしょうか。実は、青空は偏光しているのです。空が青く見えるのは、太陽からの光線が大気中でレーリー散乱してから目に届くからです。レーリー散乱とは分子や原子が持つ電子が入射光につられて振動するために起こる散乱で、波長が短いほど(周波数の4乗に比例して)散乱を起こします。青い光は波長が短いので選択的に散乱されるので、空が青く見えるのです。そして、レーリー散乱された光は強く偏光するという性質があるのです。 |
右の図5は、光源からの離角と偏光度・方向の関係を示したものです。太陽からの光が大気中で一回だけレーリー散乱してからカメラに到達する、というモデルの場合、偏光度は離角θに対してsin2θに比例します。また、偏光の方向は常に光源と垂直方向ですので、太陽を中心とした同心円状に偏光するわけです。θ=90°で偏光度は最大になります(モデルでは100%の偏光ですが、実際には多重散乱などがありますから100%とはなりませんが)。 |
ただし、偏光フィルターを使用した写真2をよく見てください。写真左上隅が最も暗く、右下に向かって明るくなるという斜め方向のグラデーションが付いていて、不自然です。一方、フィルター無しの写真ではグラデーションが高さ方向に付いていて自然です。偏光度が太陽からの離角に依存するために、偏光フィルターを使うとグラデーションが現われるのです。 |
蛇足ですが、偏光フィルターを2枚と液晶モニターを使って、簡単な理科実験ができます。液晶モニターはガラスパネルの内側に偏光フィルターを用いており、画面の光は直線偏光しています。そのため、偏光フィルターを通して液晶モニターを見ると、偏光フィルターの向きによって画面の明るさは大きく変化し、向きが直交すると真っ暗に見えます。ところが、この1枚目のフィルターと液晶モニターとの間に、2枚目の偏光フィルターを45°回転させて挿入すると、あら不思議、挿入した部分が透けて見えます(写真6)。ところが、2枚目と1枚目のフィルターの順序を入れ替えると、まったく透けず、真っ暗なままです。 |