血圧計

疲労しない運動量と心拍数

2004年7月11日


山歩きではかなりの運動量が長時間続きます。のんびりペースで歩いても、重い荷物を背負うことで運動負荷は高まりますし、登りとなればかなりの運動量でしょう。長時間の運動を持続的に続けるコツは、なるべく有酸素運動だけでエネルギーを発生させること、つまり無酸素性作業閾値以下の運動負荷に押さえることです。それには心拍数がよい指標になります。持続可能なペースを示す心拍数は個人差がありますので、それぞれ自分の最適な心拍数を知っておくことがいいでしょう。このような動機で、心拍計測をしながら丹沢を歩きデータを取ってきた結果を報告します。
この報告は、初出時には2004年7月10日の丹沢山行記録の一部として掲載しましたが、「山の便利帳」に載せるのが適切と考え、転載しました。

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1. はじめに…疲労しない運動量と心拍数

山本正嘉著「登山の運動生理学百科」(東京新聞出版局)によると、持続的に運動が可能なマイペースはAT(Anaerobic Threshold: 無酸素性作業閾値。血中の乳酸値が2ミリmol/リットルを越える限界)程度であり、その運動量は心拍数で評価することができる。ATを越えるペースでは脂肪の代謝効率が下がってダイエットに適さないし、乳酸が蓄積して疲労してしまうので、重要な指標である。ATは最大心拍数の75%程度であり、最大心拍数は (220 − 年齢) という式で近似できるそうなので、ATに対応する目標心拍数(拍/分、以下bpmと略記)は

目標心拍数≒ (220 − 年齢)× 0.75 --- (式1)

で与えられるので、私の年齢を代入すると138 bpmとなる。
その他、

[目標心拍数]=[心拍余裕(HRmax - HRrest)]×[運動強度]+[安静心拍数(HRrest)] --- (式2)

という指標も、「無為自然 Mac好きランナーのホームページ」で紹介されており、私の安静心拍数50 bpm, 最大心拍数184 bpm, 運動強度75%を代入すると、目標心拍数は150 bpmという値が得られる。実際の山歩きで心拍数を計測して、基準となる上記の数値と比較してみよう。

2. 測定

測定を行った山行の記録文をこちらに掲載している。2004年7月10日、7h20mに標高430mの平丸を出発し、1673mの蛭ヶ岳に登頂し、檜洞丸を経由して西丹沢自然教室に16h00mに到着するというルートを歩いた。昭文社「山と高原地図・丹沢」によるとコースタイム9h45mの経路であり、それより10%ほど早く歩いたことになる。真夏の山歩きということで、脱水症状を防ぐために水分補給は欠かせないので、2.8リットルの飲料水(VAAM, エネルゲン, ポカリスエット)を用意し、歩きながら適宜給水した。コース中の総給水量は2.5リットルであった。
心拍数の測定には手首血圧計(松下電工 EW3032)を用いた。測定は静止状態で行う必要があるので、ザックを降ろして測定を完了するまでの間に心拍数が低下している可能性があり、歩行時よりも数値が低めに出るかもしれない。

3. 結果

表に、計測時刻と標高、心拍数、血圧のデータを示す。 また、標高と心拍数の時間変化のグラフをこちらの図に示す。 8h57mから9h07mの間は平坦な巻き道をゆっくりと歩いたので、休憩に近い状態であった。9h58m - 10h16mは姫次に到着直後と休憩後の出発直前、11h24m - 11h51mは蛭ヶ岳山頂に到着直後と休憩後の出発直前に、それぞれ対応する。 心拍数は最大でも101 bpmで、式1から期待される138 bpmや式2の150 bpmに比べて大幅に低い結果となった。 また、血圧は最低が60前後、最高が100 - 110前後と安定しており、変化があまり見られなかった。

表 : 心拍数と血圧の計測値
時刻 標高 (m) 心拍数 (bpm) 血圧 - 高 (mmHg) 血圧 - 低 (mmHg) 備考
6h19m 140 52 106 56橋本駅バス停
8h27m 1000 85 105 65酷暑の中の急登
8h57m 1160 98 103 67平丸分岐
9h07m 1180 80 92 61平坦なトラバース
9h58m 1430 85 103 63姫次で休憩前
10h16m 1430 77 106 67姫次で休憩後
11h24m 1673 101 111 65蛭ヶ岳で休憩前
11h51m 1673 74 111 75蛭ヶ岳で休憩後
12h47m 1450 98 103 68臼ヶ岳
13h03m 1260 93 111 70神ノ川乗越
13h28m 1320 95 100 68金山谷乗越
14h10m 1600 99 111 75檜洞丸山頂
15h31m 720 95 104 65ゴーラ沢出合先

4. 考察

4.1 気温と運動量について

この日は蛭ヶ岳に登頂する11h21mまでは強い陽射しに気温が高く、特に標高1400m以下を登っているうちは酷暑で、汗だくの状態であった。いくら汗をかいても体温が下がらないオーバーヒート状態であり、運動量を抑制せざるを得なかった。11h21m以前の心拍数がほとんど90 bpm以下と、午後の値に比べて低いのは、それが原因と考えられる。午後は驟雨を浴びて涼しくなったので、排熱に悩まされることがなかった。
酷暑の下での山歩きは、運動量の最大値はATでなく排熱処理量で制限されると考えられる。

4.2 ATと測定値とのギャップについて

測定心拍数の最大値101 bpmを得た蛭ヶ岳への登りは、本人としてもかなり頑張ったつもりの結果である。それが、予想されるAT時の心拍数より大幅に低いというのはかなり衝撃である。頑張ったのはあくまでも「つもり」であって、このペースではまだまだ怠けているのかもしれない。あるいは、心臓に問題があって、必要な心拍数で働いてくれないのかもしれない。健康診断で心電図を測定したときに「洞性徐脈」と診断されたことも、これを裏付けている。怠惰な性格は、心臓とも関連があるのかもしれない。
私の場合、通常のAT心拍数に到達するのはかなり難しいようであり、持続的に運動するには100 bpmを目標にするのが妥当であろう。


最終更新日 : 2005年5月8日

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