蝙蝠岳・塩見岳・間ノ岳・農鳥岳 山行記録 #2/42004年8月11 - 14日 蝙蝠岳山行二日目。転付峠でペルセウス座流星群の観望をした後に二軒小屋まで標高差700mを下り、蝙蝠岳まで長大な尾根を標高差1,500m登り返して雪投沢に到るまでの12時間30分に及ぶロングコースは、今回の山行のハイライトだ。蝙蝠岳の雄大な稜線を独り占めして至福の山歩きを楽しんだ。 |
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第1日 (8月11日) 田代入口 → 転付峠 第2日 (8月12日) 転付峠3h30m → 二軒小屋4h40m/4h50m → 中部電力管理棟6h19m → 徳右衛門岳10h00m/10h55m → 2721m峰12h23m → 蝙蝠岳13h10m → 2920m峰15h12m → 雪投沢16h00m 第3日 (8月13日) 雪投沢 → 熊ノ平 → 三峰岳 → 間ノ岳 → 農鳥小屋 第4日 (8月14日) 農鳥小屋 → 農鳥岳 → 大門沢下降点 → 奈良田 |
23h30mに起床。テントから顔を出すと満天の星空。ちょうど東からペルセウス座が登ってくるところで、早くも群流星を2個ほど目撃。これは期待できそうだ。餅をぶち込んだマルタイ棒ラーメンで体を暖めて気合いを入れる。夜露の付いた三脚に、ISO 1600の高感度フィルムを装填したカメラをセットしてレリーズを付ける。F1.4 → 2.0に一段絞り、20秒露光で、はくちょう座や、カシオペア座や、輻射点のあるペルセウス座など、天の川沿いの星座に写野を向ける。うまく露出時間内に写野中を流星が横切ってくれるといいのだが。2h30m頃にみずがめ座に大火球が飛ぶ。フラッシュを焚いたように影ができるほどの明るさで、1分ほど痕が見え続けていた。この方向にカメラを向けていなかったのが残念。でも、ペルセウス座を狙った一コマに群流星が写ってくれた。 |
3h00mに撤収を開始する。夜露に濡れたテントをスイムタオルで拭いてから畳み、3h30mに出発。ヘッドランプの灯を頼りに二軒小屋への道を降りる。よく整備されたつづら折れの道は夜でも歩きやすい。おや、下方に動く明点が…と思ったら二軒小屋から登ってくる登山者だ。若い男性の単独さんで、二軒小屋を1時間前(ということは3h00m)に出発したという。 |
薄明で景色が見えるようになり、大井川の沢音が聞こえてくると、二軒小屋の灯が見えてきた。4h40mに到着。立派なロッジの前には白樺林と草地の美しい幕営地。昨日の内にここにたどり着けなかったのは残念だが、満天の星空と流星群を眺められたのは稜線の転付峠に幕営したからこそなので、結果オーライだろう。掲示板に徳右衛門岳直下の水場の情報があるので目を通す。分岐から赤テープを見失わないように、との指示がある。 幕営地を横切って林道に降りると、ワゴン車とテントが大井川を渡る橋を塞いでいる。どうして幕営地でなくコンクリートの橋に設営するのか、不思議で迷惑な人達がいるものだ。 |
二軒小屋トンネルを抜け、大井川東俣に架かる立派な鉄橋を渡ったところの分岐を右に進むと、蝙蝠岳登山道の取付きがある。尾根の東側斜面を登る道はとても急で、汲み上げる水の量を2リットルに制限しているにもかかわらず荷物が重く感じられる。歩幅を細かく刻み、かつゆっくりと歩みを進める。水場に着くまでは発汗量を制限する必要があるのだが、まだ早朝ということもあってそれほど暑くなく、滴り落ちる程には汗をかかずに済む。稜線に到着すると傾斜は緩やかになり、多様な植生の中を進む。 |
しばらく単調な登りが続く。野鳥の声が賑やかで、特にルリビタキの姿を多く見るが、行程に余裕がないので望遠レンズを出さずに黙々と歩む。キノコの種類がとても多い。色鮮やかなタマゴタケの他、種類の分からない栗色の大きな笠や白くて小さな塊など、様々だ。 |
苔生すシラビソの林を歩くと気持ちが癒される。あらゆる倒木に苔が密生しているので、腰掛けて休める場所が少ないのが辛いけど。 森の世代交代のためか若い低木が中心の場所からは、悪沢岳や富士山の展望が得られ、気分を盛り上げてくれる。 |
高茎草原状の斜面に出たと思ったら、10h00mに徳右衛門岳に到着。あれっ、水場への分岐を通り過ぎてしまった。山頂にテントを張っている人がいるので、水場への分岐の場所を尋ねる。5分ほど下ったたところに矢印があるのでそこを右に進むそうだ。下ってみると、確かに分岐と矢印が見つかったけど、この矢印では分かりづらい。また、「水」(というより*)書いたプレートは、登る側からからは気付きにくい位置にあった。 |
ともかく分岐を右進して下ると、左右両方に赤テープが付いている。二軒小屋の掲示板に、「ガレ場を高巻くように南側から回り込む」とあったのを思い出して右に進むと、道はだんだん険しくなり、密林の枝に行く手を阻まれるようになる。下から沢音が聞こえるのでそれが水場だろうと思って進むのだが、テープも無くなりほとんどケモノ道となってしまった。いくら何でもこれは違うだろうと引き返し、分岐に戻って左側に進むと、シシウドやトリカブトのお花畑に出る。その下端で、さっき会った人が水を汲んでいる。やっと水場にたどり着いた。水の流れはとても細く、2リットルを汲むのに数分かかった。 |
その先の道は傾斜がやや緩やかになるものの、水場で体力を消耗したため歩くのが辛い。1呼吸に1歩、それも靴幅程度というスローペースだ。2581mピークの東側を巻いた先の下りから、蝙蝠岳を見上げるポイントがある。やっと目標が見えて感激すると共に、「遠いなぁ」と思う。縞枯山のように帯状に立ち枯れているシラビソや岳樺の林を、「頑張らなくてもいつかは着くもんね」と能天気な気分で登る。大腿四頭筋に疲労が貯まってきたと感じたら、道端の花の写真を撮って休憩する |
蝙蝠岳だけに、カニコウモリの花は外せない。岳樺の背が低くなってハイマツが混成する中にコバイケイソウやハクサンフウロの咲く高茎湿原を通ると、森林限界が近いことを感じさせる。 |
12h23mにひょっこりと2721m峰に出ると、森林限界を抜けて大展望が広がる。この瞬間の解放感を、どう言葉で表現できようか。目の前に蝙蝠岳へ続く稜線が伸び、その奥には塩見岳の山頂が尖っている。左手には悪沢岳がどーんと構え、右手には間ノ岳から農鳥岳・広河内岳・白河内岳・黒河内岳(笹山)と白峰南嶺が続く。思わず「うわーっ!」と声を上げてしまい、疲労が一気に吹き飛んだ。夢中になって写真を撮りまくる。 |
蝙蝠岳山頂からの線状凹地をハイマツが埋め、その東縁を登ってゆく。景色に感動して、疲労を感じる暇もない。 |
あと1分で登頂というところで、小柄な雷鳥に出会う。よく見ると大きな雷鳥もそばにいて、親子のようだ。蝙蝠岳登頂という、昨年からずっと思い描いてきた目標達成を、雷鳥に祝福されたような気がする。13h10mについに蝙蝠岳に登頂。 |
山頂からの眺めは素晴らしく、特に塩見岳に続く稜線の美しいこと。歩いてきた稜線を振り返るのも感慨深い。この山頂に泊まりたい気持ちが少しあったけど、それでは明日の行程が破綻するし、山頂直下の凹地にはテントがすでに一張設営されているので、計画通り先に進もう。だんだんと雲が湧いてきたけど、積乱雲とは違うので午後の稜線歩きをしても雷の危険は少なそうだ。 |
塩見岳へと続く稜線は標高2,700mまで一旦降り、森林限界以下に入る。岳樺とハイマツの薮を進むと再び砂礫の稜線に出る。左側からの直射日光がSPF97の日焼け止めを突き抜けて肌に刺さるが、斜面を吹き上がる涼風は気持ち良く、のんびりと稜線漫歩を楽しむ。 |
15h12mに2920m峰(北俣岳)を通過すると、それまでのたおやかな稜線が一変して荒々しい鋸状になる。雪投沢を見下ろすことができ、カール地形にハイマツが敷き詰められた美しいサイトに、テントが3張ほど設営されている。 |
アップダウンの激しい岩稜を進み、15h33mに塩見岳方面と雪投沢方面の分岐に到着。ここから塩見岳に空身でピストンする計画だったが、時刻が遅いし山頂がガスに覆われているので、さっさと雪投沢に降りよう。下降を始めるとガスが晴れてきて、仙塩尾根の先に間ノ岳や仙丈ヶ岳が姿を現すようになった。塩見岳の山頂も晴れてきて、「行ってもよかったかな?」とちょっと後悔。仙塩尾根から雪投沢への下降点は赤ペンキを塗った杭が目印。雪投沢に16h00mに到着。 |
すでに4張が設営されており、稜線に近いところは埋まっていて、傾斜地か下の方に行くしかない。まあ、静かなのがいいので少し降りた平坦地に設営しよう。視界は開けていて星空の観望には適しているし、ハイマツに彩られた緑の斜面は美しいし、こんなに素敵なキャンプサイトで一夜を過ごせるのは嬉しい。 |
先着のパーティに水場のありかを尋ねると、東に進んだ先で沢に降りたところだというので、テントを設営した後にペットボトルを携えて行ってみる。5分ほど歩き、ダケカンバの林をかき分けて降りた沢の流水を汲む。沢の水は不衛生な場合があるが、ここの沢は上流に汚染源は無いし、この冷たさでは大腸菌も繁殖しないだろうから大丈夫。じっさい、生水を飲んだけど問題ありませんでした。 |
夕食はまたもサラスパを茹でてプチパスタボロネーゼソースを掛けたもの。レトルトパックのソースは重いので早く消費するに限る。 |
日没が近いのでアーベントロートの写真を撮るべく三脚とカメラバッグを持って稜線に上がる。日が落ちるにつれて茜雲の色彩が変化する様子を撮りまくる。 |
カール地形の雪投沢では、放射冷却によって冷えた空気が下降気流となって私が幕営した辺りに集まってくる。クーリングフロー仮説は銀河団では死んだけどカール地形では実在するのだ。テント内の気温は8.4℃と結構寒い。天空に架かる天の川を眺めてから、今夜はちゃんと寝袋に潜り込んで就寝。 |