三ツ石山からの眺め

裏岩手縦走路 山行記録 #1/2

2004年9月24 - 25日


活火山の岩手山 (2038m) は一部の登山道が通行規制されていたが、2004年7月以降、全ての登山道で規制が解除となった。この岩手山から八幡平までは裏岩手縦走路と呼ばれており、標高1200 - 1600mのなだらかな高原が続いて、展望や様々な植生や地形を楽しむことができる。紅葉が期待できる9月下旬に盛岡を訪れる機会があったので、これを契機と裏岩手縦走路を歩いてきた。全コースが国立公園で途中に幕営指定地も無いため、宿泊は避難小屋ということになるが、三ツ石山荘が建て替え工事中で利用できないので、大深山荘が唯一の宿泊可能な場所だ。前日の幕営地である相の沢キャンプ場からはコースタイムで15時間の長丁場なので、午前2時に出発して延々と歩いた。

第0日 (9月23日) 盛岡15h20m−(岩手県バス)→ 相の沢キャンプ場16h30m

第1日 (9月24日) 相の沢キャンプ場1h45m → 御神坂駐車場2h05m → 不動平6h26m → 岩手山6h54m → 不動平7h20m → 御苗代8h24m → 姥倉分岐9h45m → 三ツ石山荘12h10m → 三ツ石山12h50m/13h10m → 小畚山14h00m → 大深岳15h13m → 大深山荘16h03m

第2日 (9月25日) 大深山荘 → 嶮岨森 → 諸檜岳 → 畚岳 → 見返峠

経路図はこちら

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学会の終了と共にダッシュでホテルに戻り、預けていたザックを受取る。登山靴に履き替え、余計な荷物は宅急便で自宅に発送。わずか1時間で登山口に向かうバスの乗客となる。 小岩井農場を縦断するバスの車窓に岩手山がだんだんと大きくなる。16h30mに相の沢キャンプ場に到着。駐車場や炊事場やトイレが完備された草地の美しいキャンプ場で、隣接する牧場には多数の牛が放牧されている。のんびりと過ごす家族連れもあって、ほのぼのとしていいところだ。祝日なのに空いているし。ここが無料とは素晴らしい。管理する滝沢村に感謝しつつ、炊事場にほど近い一角に幕営。

小岩井農場と岩手山

小岩井農場と岩手山

今晩の宿

相の沢キャンプ場に幕営

明日に備えて登山口を偵察に行く。車道を約2kmほど西に進んだ御神坂駐車場には、登山届提出箱の脇にセンサーがあって、登山道に人が入ると「登山者の方は登山届を出してください」と自動音声が鳴り響く。未明にこの音声を聴いたらびっくりするので、偵察しておいてよかった。登山道はよく歩かれていて踏み跡が明瞭なので安心。一旦幕営地に戻り、入浴セットを持って「相の沢温泉 お山の湯」へ向かう。徒歩15分ほどに位置する村営の温泉施設で、そこそこ賑わっている。入浴後に付帯の食堂で食事。ソフトクリームまで食べて寛いでしまった。19h00mにテントに戻って就寝。


0h30mに起床。満天の星空を眺めることができ、予想以上の好天にやる気が湧く。今日は長丁場なので、サラスパ+プチパスタ4種のチーズクリームと、ほうれん草ベーコンスープの朝食をしっかりと摂取。炊事場で汲んだ3リットルの水を荷に加えて、1h45mに出発。
沈み行くはくちょう座やみずがめ座を眺めながら車道を進む。振り返ると冬の星座が昇ってきて、季節の移り変わりを感じさせる。2h05mに御神坂駐車場を通過。自動音声にも慌てず、登山届を提出して登り始める。尾根をひたすら直登するルートで、効率的に高度を稼ぐことができる。始めは緩やかな傾斜も、ウォーミングアップができた頃に徐々にきつくなってくる。ヘッドランプの灯だけが頼りなので、足の置き場の最適化が難しい。荷物を背負うことで体の慣性モーメントが変化したことに運動神経が対応できていないこともあるのだろう、浮き石や滑りやすい土壌を踏んでしまってよろけること多数。慣れるまではゆっくりと歩むしかない。ときどき闇の中でガサガサ音がする。多分鹿だろうけど、熊だったりすると怖いので警笛を吹いて防衛。

2h58mに切接(きりはぎ)に到着。山頂まで4.4km, 御神坂Pから1.7kmの標識がある。「ゆっくり歩いて休まない」方針で先に進む。右手の樹間から見え隠れする金星を道しるべに登ってきたのだが、やがて雲に覆われて星が姿を消してしまった。薄明が始まっている。盛岡市街の夜景が見えたと思ったら、露岩帯の大滝展望台に4h22mに到着。標高約1250mで、不動平までのほぼ中間点だ。その先再び樹林帯を行くが、すぐに展望のよいガレ場の尾根になる。盛岡の向こうに、早池峰山のシルエットが美しい。

盛岡の夜景と早池峰山のシルエット

盛岡の夜景と早池峰山のシルエット

火山岩積み重なる登山道

火山岩積み重なる登山道

火山岩が積み重なる稜線は足場がしっかりして歩きやすい。巨岩のすぐ下を歩くところに「笠締」の標識。西側の御神坂沢の荒々しい岩場と、ハイマツの緑に点在するモミジの紅葉やダケカンバの黄葉などの対比が美しい。霜で枯れた葉が多いけど、それでも紅葉の美しさに癒される。

秋田駒と乳頭山

秋田駒・乳頭山が朝日を浴びる

やがて、秋田駒ヶ岳・乳頭山がモルゲンロートに染まる。ここまで登ってきた御神坂尾根を見下ろすことができて、ほっと一息。

御神坂尾根を見下ろす

御神坂尾根を見下ろす

外輪山を成すの鬼ヶ城の南面は荒々しい岩場。ハイマツや草紅葉が彩り、美しい。6h20mに外輪山の鬼ヶ城分岐に到着。

鬼ヶ城南面

外輪山の鬼ヶ城南面

不動平を見下ろす

不動平を見下ろす

草紅葉に彩られた見事なカルデラの底には、不動平避難小屋や八合目避難小屋が見られる。山頂を含む内輪山もガスを突いて姿を現した。6h26mに不動平に降り立ち、ザックをデポして空身で山頂をめざす。ここで今日初めて他の登山者に出会う。「稜線はものすごい風だよ」と教わった。

内輪山の草紅葉

内輪山の草紅葉

岩手山頂を振り返る

岩手山頂を振り返る

火山岩がザレた砂礫の急斜面を登り、内輪山の一角に6h42mに到着。地殻変動をモニターするGPSが設置されている。火口や中央火口丘も、流れるガスを突いて垣間見られる。山頂の薬師岳に向かって、お地蔵さんが十数メートル間隔で安置されてガイドの役割を果たしている内輪山の稜線を進む。確かにものすごい強風。始めのうちは追い風なので楽できるが、お鉢巡りなので徐々に右からの横風となって体が流される。突風に吹き飛ばされるのが怖いので、稜線よりやや内側を歩む。6h54mに標高2038mの岩手山頂に登頂。ガスと強風で全く展望なし。単独の男性が記念写真を撮ろうとしているが、三脚が風に倒されるので、シャッターを押すのを頼まれる。ガスですぐにレンズが曇るのに難儀する。こんな条件の山頂に長居は無用で、さっさとお鉢巡りして降りよう。

ときどきガスが切れると活火山の荒々しい様相が見られて興味深い。中央火口丘にも行ってみたいけど、この強風下では止めた方がいいだろう。火口から出ているのは噴煙かガスか判別し難い。なお、岩手山の岩石学的な解説は「岩手火山バーチャル巡検」が詳しいです。

中央火口丘

中央火口丘

御苗代カルデラ

御苗代カルデラを見下ろす

7h20mに不動平に戻る。避難小屋のトイレに寄ってから大地獄谷方面へ出発。御苗代カルデラへと降りる道からは、御苗代湖や大地獄谷、その先の黒倉山・姥倉山方面が遠望できる。雲底は低いが、行く先に陽が射していてワクワクする。左手には鬼ヶ城の千俵岩と呼ばれる城壁のような岩脈露頭があって面白い。

鬼ヶ城の千俵岩

鬼ヶ城の千俵岩

鬼ヶ城北壁の紅葉

鬼ヶ城北壁の紅葉

やがて道は樹林帯に埋もれ、紅葉が点在する中を急降下する。鬼ヶ城北壁の紅葉も見事。斜度が緩やかになってきた辺りで、正面からキツネが走ってきた。私に気付いて「ハッ」として右手によけたときのバツの悪そうな表情に苦笑いする。

御苗代から南方向

御苗代から南方向

北西方向

北西方向

北東方向

北東方向

8h24mに御苗代カルデラ底のお花畑に到着。潅木に囲まれた枯草色の湿原で味わいがある。パノラマ写真を撮りまくる。平笠不動の岩頭も存在感がある。

大地獄谷の彼方に黒倉山

大地獄谷の彼方に黒倉山

大地獄谷への道を進む。硫化水素の臭いがだんだん強くなる。有毒ガスに倒れる人もいるそうなので注意が必要だ。所々温泉が湧いて沢筋に硫黄の白い流れができている。

大地獄谷の紅葉

大地獄谷の紅葉

大地獄谷を振り返る

大地獄谷を振り返る

白く脱色した砂礫の道を紅葉が彩る素晴らしい景勝。秘境というに相応しい場所だ。黒倉山への登りではシラタマノキの群生が見事。

シラタマノキ

シラタマノキ

9h15mに鬼ヶ城ルートとの合流地点到着。黒倉山は火山活動のため登頂禁止なので巻き道を行く。この巻き道で十数名の高校生と引率の先生と思われるパーティとすれ違う。これまでは人に会うことはなかったのだが、網張温泉スキー場のリフトを利用して岩手山を目指す登山者が多いのか、犬倉を過ぎるまでは多数のパーティに会った。
姥倉山へ続く稜線は笹とハイマツとがせめぎ合う展望のよい草原。これから歩く、大松倉山や小畚山、大深岳、さらに遠方の畚岳や八幡平、茶臼岳を望めて、気分は昂揚する。

黒倉山麓からの展望

黒倉山麓からの展望 :正面は姥倉山

姥倉山手前の火山

姥倉山手前で噴煙を上げるミニ火山

やがて稜線は火山活動の地熱によって裸地化する。噴煙を上げる小ピークもあるが、強風で噴煙をはっきりと写せないのが残念。9h45mに姥倉山から松川温泉に至る道を右に分け、犬倉山方面へと下る。またも樹林帯に下り、ぬかるみで滑りやすい道をゆく。犬倉山との間の鞍部には水場の標識。少しくだったところに豊かな水量の流れがある。この水場は昭文社の「エアリアマップ 山と高原地図 2004年版 岩手山・八幡平 秋田駒」には記載されていないが、山麓の案内板にはちゃんと書かれていた。

予定の通過時刻より少し遅れ気味なので、犬倉山の山頂はパスして巻き道をゆく。しかし山頂からの道との合流地点から犬倉山を見上げると紅葉が見事だったので、山頂を通ってきてもよかったかな、と思う。 10h32mに網張温泉への道を左に分け、三ツ石山への道を進む。笹原を下ると紅葉が点在する潅木帯に入り、やがてコメツガの樹林帯を行く。先行する中年女性3人のパーティに追いつくと「うわっ、びっくりした」と言われる。先を譲ってもらう際に、「山荘まであとどれくらいかしら」と質問されるので、「大深山荘ですか?」と聞くと「ちがうわよ、三ツ石山荘」と言われる。「あと1時間くらいだと思いますけど…三ツ石山荘は建替え工事中で利用できませんよ」と答えると、「知ってるわよ」とムッとされてしまった。どうも苦手な人たちだなぁ。私がひと言多いのだろうか。

姥倉山を振り返る

姥倉山を振り返る

三ツ石湿原と三ツ石山

三ツ石湿原と三ツ石山

大松倉山への登りで再度森林限界を抜けて笹原に紅葉の点在する眺めの良い稜線を行く。秋田駒・乳頭山の眺めが素晴らしい。吹き渡る風が心地よい、開放的な稜線のお散歩にウキウキ。大松倉山を11h47mに通過。行く先の三ツ石湿原や三ツ石山、小畚山を望んでうっとりする。

12h10mに三ツ石湿原に到着。池塘の散在する湿原は草紅葉が美しい。三ツ石山荘は建替え工事中で、資材を運ぶヘリコプターが次々と爆音と強風を伴ってやって来る。11月15日に完成予定だそうだ。ツアースキーを楽しむ人には朗報だろう。

三ツ石山荘建設中

建設中の三ツ石山荘

三ツ石湿原と大松倉山

三ツ石湿原と大松倉山を振り返る

三ツ石山への登りからは、岩手山からここまで歩いてきたルートを振り返ることができる。森と紅葉と草原が入り交じるたおやかな地形に見入ってしまう。

三ツ石山に12h50mに登頂。その名の通り、岩が積み上がったピークが三つある。東峰で初老の単独男性に出会い、挨拶を交わす。ここの眺めは絶景のひと言。ハイマツと紅葉のパッチワークに彩られた高原が遠くまで続く。あちこちに、枯草色の湿原も点在している。

栗木ヶ原・大白森の向こうに曲崎山

栗木ヶ原・大白森の向こうに曲崎山

草原と紅葉と湿原

草原と紅葉と湿原と

大深岳方面

三ツ石山から大深岳方面

三ツ石山から東方向

三ツ石山から東方向

南西方向

南西方向

北西方向

北西方向

三ツ石山西峰

三ツ石山北峰の岩塔

中央峰への登りにザックを置いて、中央峰の先にある西峰の巨岩に腰掛け、眺めを堪能する。ぼーっとして眺めていたら、不意に涙腺が緩んできた。雲ノ平や苗場山の眺めにも、涙を流すことなんてなかったのに…。デポ地に戻ると、さっき出会った男性に再会する。この景色の感動を共有しようと思えど、「こんな素晴らしいところがあったのですね」と平凡な言葉しか見つからないが、余計な言葉は無用だろう。男性はこの山域に造詣が深いようで、山や湿原の名前などをいろいろと教わった。北西に見えていた高層湿原は大白森で、木道があって歩くことができるという。いつの日か、ぜひ訪れてみたい。

三ツ沼から1448m峰

三ツ沼から1448m峰を見上げる

小畚山まではなだらかな高原の散歩道。ゆっくりと歩いて秋の風をたっぷりと味わった。途中には三ツ沼もあってよいアクセントになっている。1448m峰を過ぎるとガスが出て展望を邪魔し始める。14h00mに小畚山に到着。素晴らしかった展望もガスのためここで終わりのようだ。

三ツ石山を振り返る

三ツ石山を振り返る

ここから大深岳へは、140mほど下った後に210m登り返さなくてはならない。鞍部まで小畚山北面の紅葉が続き、そこから大深岳へのつづら折れが見える。苺とナタデココのヨーグルトデザートを食べて栄養補給してから出発。急斜面を、かなり疲労が貯まった脚に負担をかけないようゆっくりと下る。鞍部は背丈ほどの笹と紅葉のトンネル。路面が笹に隠されて注意しないと岩や段差に足を取られるので、紅葉を眺めながら歩くことができない。

紅葉のトンネル

紅葉のトンネル

ミヤマリンドウ

ミヤマリンドウかな?

登り坂は波長の長いつづら折れ。6回ほど折り返すと傾斜が緩やかになって直登になる。関東森への道を左に分け、笹をかき分けて進むと大深岳に15h13mに到着。ガスで展望のない山頂でちょっと休憩してから出発。後は大深山荘へ降りるだけだ。源太ヶ岳へ続く笹原のなだらかな稜線を5分ほど進んでから左折。ゆるやかな下り道は水捌けが悪く、先日の雨による水溜まりが随所に残る。

15h35mに水場への分岐に到着。ザックを置き、ペットボトルを入れた袋を携えて汲みに行く。背丈ほどの笹をかき分け、ヌルヌルした泥道に足を掬われながらも水場に到着。豊富な水量があり冷たくて美味しい。デポ地に戻って5分ほど進むと大深山荘が見えてきてホッとする。16h03mに到着。14時間に及んだ行程を無事クリアできたことは自信につながる。

大深山荘

大深山荘

新築の大深山荘は二階建ての立派で清潔な避難小屋。先客に若い単独の男性がいるだけだ。挨拶を交わし、土間を挟んで向かいの床に寝床を確保する。程なく中年男性二人のパーティも到着。今晩宿泊するのはこの4人だけで、広々と使える。物静かでマナーの良い人たちばかりで安心する。水場への行き方を二人のパーティから質問されるのでさきほどのルートを伝えると、先着の単独さんからもっと楽なルートがあることを教えられる。山荘備付けのノート表紙に水場への地図が記されており、山荘の東側から直接行けるそうで、階段が整備された歩きやすい道だそうである。この直接ルートは「エアリアマップ 山と高原地図」には記されていない。しかも私が通ったエアリアマップ記載のルートは、山荘ノートでは「お勧めしません」と書かれている。うう、苦労せずに水場に行くことができたのか…と嘆く。 マルタイ棒ラーメン海草と餅と桜エビをぶち込んだ夕食を摂取し、コーヒーとクッキーを堪能してから、早々に就寝。

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初出 : 2004年10月2日, 最終更新日 : 2004年10月2日

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