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ミームの延長された表現型 



生物は遺伝子が増えて残るための機械である、というのがドーキンスの「利己的な遺伝子」説でした。生物の形態や行動が多様なのは、遺伝子が生き残るために様々なデザインを試した結果と言えましょう。例えば、野鳥の雄には美しい姿のものが多いのは何故かを考えてみると、雌は美しい雄を好むので子孫を残すチャンスが多いから、美しい姿を作る遺伝子が世代を経る毎に多くなるわけです。なぜ雌が美しい雄を好むか、それは雌の遺伝子の立場に立ってみれば分かりやすいです。美しい雄が持つ遺伝子と受精できれば、生まれる子は父親に似て美しくなる可能性が高いから、次世代の雌にモテて孫の世代を残す可能性が高いわけです。一方、美しくない雄と交尾してしまったら、せっかくの子供がモテない可能性が高く、孫の世代ができないもしれません。従って、モテる雄と結ばれたいという性向を持つ遺伝子は栄え、モテない雄が好みの趣味悪い遺伝子は絶滅しやすいわけです。モテる雄と結ばれたいという雌の欲求も、雌にモテる雄の美しさも、遺伝子に操られた結果なのですね。このように、遺伝子が個体のデザインを試した結果は「遺伝子の表現型」といえましょう。
遺伝子が多様な表現型を作るのは、個体の体だけに留まらず、周囲の環境にも及びます。例えば蜂の巣も蜂の遺伝子がデザインしたもので、蜂が効率的に繁殖するのに役立ちますから、よい巣をデザインする遺伝子は栄えるわけです。。蜂の巣に限らず、アリ塚・モグラのトンネル・ビーバーのダム・サンゴ礁など、遺伝子が増えて残ろうとして編み出した表現型です。個体の範疇を越え、環境の変化を伴って形作られるこのようなデザインを、「遺伝子の延長された表現型」といいます。山の斜面に植物が根を張り巡らせて土砂崩れを防ぐのも、光合成で酸素を発生して大気の組成を変えてしまったのも、非常に大規模な「表現型」です。
ミームも拡張された表現型を作り出します。例えば宗教というミームは、衣装・儀式・偶像・音楽・建築物など、実に多様な延長された表現型を作ります。人が服を着るのは防寒という生存の目的もありますが、華美な装飾を施すのはミームのなせる技でしょう。スポーツ競技場や、美術館や、コンサートホールなど、趣味や文化のための施設は大抵ミームの延長された表現型です。科学的探求心というミームは、大航海時代に船を建造し、望遠鏡を発明し、飛行機で地球をくまなく飛び回り、揚げ句の果てに探査機を宇宙空間に飛ばすまでに至りました。遺伝子の表現型などでは及ばない、巨大な延長された表現型を、既にミームは獲得したのです。
この先、ミームはどこまで表現型を拡張するのでしょうか。きっと、銀河系全体に広がるのも時間の問題なのでしょう。
(あと2回くらいかな?) 

Posted: 月 - 12月 12, 2005 at 11:30 PM      コメントを読む/書く


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