Top    

ウィルス複製機としての私たち 



生物は遺伝子を増やして残す機能を持った機械であり、人はそれに加えてミームも増やして残す、ということをこれまで述べてきました。生物が増やす遺伝子は自分の遺伝子だけではありません。ウィルスの遺伝子も増やします。
ウィルスはタンパク質のカプセルに遺伝子を包んだ粒子です。生物は自己増殖するけど、ウィルスは自己増殖できないので生物ではありません。生物の細胞が、入り込んできたウィルスを複製してしまうことで、ウィルスは増えるのです。コンピューターの電源を落としていればコンピューターウィルスが増えることがないのと同様に、生物が生命活動を停止していたらウィルスも増えることはありません。細胞はウィルスを多数生産する際に資源を使うのでダメージを受けます。これがウィルスによる病気なのです。ウィルスは生物ではないので、代謝もしないし、「生」も「死」もありません。遺伝情報を運ぶメディアです。ウィルスの遺伝子も複製時にある確率でエラーが起こり、より優れたウィルスに進化することがあります。ここでいう「優れた」というのは、これまでと同様に、増えて永く残る可能性が高いという意味です。感染力の強いウィルスほど優れているわけですね。
こうしてみると、ミームとウィルスは実に似通っています。ミームもウィルスもそれ自身では増えることはできず、生物に複製してもらうことで増えて残るわけです。生物が感染によってダメージを被ることもあればダメージを受けることもある、ということもミームとウィルスに共通する事柄です。ウィルスが生物に利益をもたらすことがある、というのは意外に思われるかもしれません。でも、遺伝子治療では、組み換えた遺伝子をバクテリオファージというウィルスの一種に運ばせて生体細胞まで届けます。人為的にウィルスに感染させることで、細胞の欠陥遺伝子を補おう、というのが遺伝子治療です。これが人為的にでなく自然にも起こっていたとしたら、ウィルスによって外来遺伝子が生物にもたらされて後天的な進化が起こる…というのがウィルス進化論という仮説です。
ウィルスによって遺伝子が書き換えられ、ミームによって思想が影響を受ける。人間とは個体のレベルで見ると流動的で頼りない、諸行無常な存在なのですね。
(まだ続きます) 

Posted: 土 - 12月 10, 2005 at 11:26 PM      コメントを読む/書く


© Kameno external memory