死の後に残るもの人の誕生日は法的にはお母さんのお腹から出てきた日ですが、生物としての発生は受精卵として誕生した時点と言えましょう。この初期状態から成長して死に至るまでの過程で、物質・遺伝子・ミームがどのように変化していくかを見ることで、人生というものを俯瞰してみましょう。
■ 物質 受精卵の質量は1.5µg。ミジンコよりも軽いです。それが出産の時期には3kgにまで、20億倍にも増加します。さらに成長すると5 - 60 kgほどに達します。人間の体を構成する物質はすべて周囲の環境から取り入れられ、常に別の原子と入れ替わっています。典型的に20日ほど経過すると、ほとんどの原子は入れ替わってしまいます。「ヒトの体は絶えずして、しかもまたもとの物質にあらず」というわけです。人のアイデンティティは物質そのものではなく、その配列のパターンである、ということがわかります。 死ぬと、人体を構成していた物質は周囲の環境に還ります。人生を通して関与した物質は、原子が集まったり配列を作ったり離散したりというのを繰り返すだけです。地球全体としての原子の量は、人生を通して結局変わりません。化学組成は変化するでしょうけど、それは原子の配列を変えたということに過ぎないのです。私が世に誕生しようがしまいが、物質的には特に違いはないわけで、この意味では人生なんて空しいものかもしれません。 ■ 遺伝子 受精した時点で、父親と母親それぞれからランダムに半分ずつ選ばれた遺伝子が組み合わさって、新しい遺伝子配列が誕生します。新しく誕生した遺伝子配列は、たぶん史上初の組み合わせでしょう。また、他の誰の遺伝子配列とも異なるものです(ただし一卵性双生児を除く。クローンは細胞核の遺伝子配列は同じですが、ミトコンドリアの遺伝子が異なります)。従って、遺伝子の配列は個体のアイデンティティと言えましょう。遺伝子を載せた乗り物である個体は、胎児の時期にすでに生殖細胞(精子あるいは卵子)を減数分裂によって作ります。このときに、半分の遺伝子がランダムに選択されます。やがて個体が成熟して生殖をするときに、この生殖細胞にランダムに選ばれた遺伝子のセットが、次世代に伝えられるわけです。一方、個体を構成する体細胞の遺伝子配列(つまりあなたのアイデンティティ)は、クローンでも作らない限り複製されることはなく、やがて死を迎えます。 遺伝子は次世代に脈々と伝えられますが、遺伝子の配列は一代限りです。子を授かるというのは個体にとっては遺伝子を増やして残す行為であり、遺伝子の立場に立てば自分の複製を増やし、一緒にチームを組むメンバー構成を変え、新しい乗り物を試すことで、永きにわたって栄えるチャンスを得ることです。 ■ ミーム 人は記憶と情報伝達の能力において他の種に長じているため、ミームの生産と増殖を効率的に行います。親や周囲の人から受ける教育, 書物やTVや映画などから受ける思想, 信仰, 迷信, 噂話, …。それらをどんどん増やして他者に伝えていく、高性能なミームの媒体です。ミームによる感染はきっと物心がつく前から始まり、その増殖に寄与しはじめることでしょう。文字を習得することでミーム増殖能力は向上します。印刷物の出版や、映画や音楽などの放送や、コンピューターネットワークは、ミームの増殖範囲と速度を一気に高めました。これらの媒体は、ミームの保存や検索にも一役買っています。ミームはこれからもさらに繁栄していくことでしょう。 ミームは個体が死んだ後も残ります。故人は残された人の思い出に残るというのはまさにミームが不滅であることを示していますし、心の中だけでなく様々な媒体に故人のミームは残っていて、人の手によって複製され伝播する機会を待っているわけです。 人の一生は物質的には「何もしない」ゼロサムゲームですが、遺伝子については増やすとともに新しい組み合わせを試していますし、ミームについてはどんどん増やし新しいものを生産します。 人が一生の間に、たとえ子を授からなかったとしても、ミームを残すことができれば、意味のある人生だと胸を張っていいと思います。産まれて間も無く息をひきとる子だって(あるいは水子でさえ)、何らかの感情を周囲の人に残しているはずで、それだってミームです。9月19日の記事 に、「人は死んだら、その精神は幽霊になるわけでも天国に行くわけでも地獄に行くわけでも輪廻するわけでもなく、ただ消滅するだけ。」と書きましたが、人の精神はミームとしてしっかり世に残っているのですね。 人生の目的は、よりよい遺伝子とミームを増やし永く残すこと、に尽きるのではないでしょうか。私がこうしてしょーもないネタをblogに書いていることだって、ミームを生産し残している行為だと思えば、何となく意義のあることのような気がしないでもありません。 (まだしつこく続きます。ウィルスと宗教について書きたいことが残っていますので。) Posted: 木 - 11月 10, 2005 at 11:32 PM コメントを読む/書く |
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HaloScanサーバーの時計狂いは気付いたら直っていました。米国の夏時間が終わったからかな。(2004.12.13記)
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