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ミームあれこれ 



記憶と情報伝達の機能を媒体として増殖する自己複製子「ミーム」。そんなミームの特徴的な例をいくつか挙げてみようかと思います。
■文献
書物に記録された思想は、時間と空間を越えて伝わります。古代エジプトのヒエログリフには、「未来に向けて語るべし、それは必ず聞かれん」という記述があるそうです。歴史や文学や科学的発見など、その思想は永遠に引き継がれ、新たな思想を産み出す源になっています。
■芸術
美術, 音楽, 文学など、優れた芸術もミームの用件を満たします。美術作品を鑑賞したり音楽を聴くことで、作者の思想は多くの人に伝わります。いい作品は、繰返し展覧されたり演奏されることで、より深くかつ広範に行き渡ることでしょう。ここで「いい作品」とは、より多く複製を産み、永きに渡って残ることを指します。
■神への信仰
神の存在を客観的に証明するものは示されていないにもかかわらず、人類の90%は神を信じているそうです(日本ではその割合は半数以下と少ないらしい)。つまりほとんどの人は「神を信じる」というミームに感染しています。神を信じる人の集団にあっては、神を信じないでいることは難しい。物心がつく前から信仰を刷り込まれますし、不信心な人は容赦なくバッシングされます。
■将来の夢
スポーツ選手, 総理大臣, パイロット, 看護婦さん, スチュワーデス, 科学者, 音楽家,…。「大きくなったら何になる」という子供の夢は、現役あるいは歴史上の人の活躍を知った影響が強く作用しているでしょう。小柴昌俊さんと田中耕一さんという二人の日本人がノーベル賞を「ダブル受賞」した年には、「科学者になりたい」という子供が急増したそうです。科学者をめざす子が増えれば、将来的に科学のレベルも上がってより多くの成果を産み、さらに科学者になりたいという希望が増える…という正のフィードバックが働くかもしれません。
■愛情と憎しみの連鎖
きっかけが何であれ、AがBに好意を持つことが、BにAへの愛情をもたらし、それがさらにAからBへの愛情を増幅させるという正のフィードバックは、友人や恋人や親子関係などでよく見られることです。憎しみが憎しみを産むというのも同様に正のフィードバックであり、ケンカやテロや戦争といった現象の元になっています。相手を「好き」あるいは「嫌い」というミームが増殖しては相手に感染するという過程を、しばしば目の当たりにします。
■ブログ
私自身もそうですが、他の人のブログを見ることがブログを始める動機となっています。リンクやコメントやトラックバックといった機能で参照が容易なブログは、ミームにとって格好の媒体となっています。

ミームという自己複製子は、遺伝子と比較して際立つ特徴を持っています。
・遺伝子が親から子へ順繰りのバケツリレーであるのに対して、ミームは何千年もの時を飛び越えて世代に関係なく直接に伝わります。時間の連続性は必要ではありません。従って、絶滅の危険性が少ないです。
・遺伝子が垂直遺伝(親から子へ、という一方通行)であるのに対して、ミームは水平遺伝します。全世界的に飛散することもあります。もっとも、遺伝子もウィルスによって水平遺伝することが分かってきたので、ミームだけの特徴とは言えないかもしれませんが…。
・ミームは拡散が速いです。通信手段の発達によって、ミームの繁殖と感染は飛躍的に速くなりました。特にインターネットの発展は革命的にミームの伝達速度を上げました。今や私たちは、地球の裏側にあるミームに瞬時に感染することも珍しくありません。
・遺伝子がたった4種類の塩基配列で記述されるのに対して、ミームの具体的な記述は実に多様です。石版や木簡や紙に書かれた文字だったり、音譜だったり、人の噂だったり、計算機のコードだったりと、様々なバラエティに富みます。それらの多くは、デジタル化して1か0に還元できるのかもしれませんが。

このように、生物の繁殖活動が遺伝子に司られているように、人間の文化活動はミームに支配されている、と至言してもよいでしょう。ミームを育てる環境、つまり記憶と情報伝達の機能は、遺伝子の繁栄に寄与するということで出現しました。しかし、この2つの異なるタイプの自己複製子は、時に対立することもあります。(この項つづく) 

Posted: 日 - 10月 16, 2005 at 11:43 PM      コメントを読む/書く


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