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遺伝子による支配 



私たちが生物を見るときには個体に着目しがちですが、その生態は遺伝子によって支配されていることを知っておくと、さらに興味深くなります。個体が「自分の子孫を残そう」として一生を過す、というよりは、遺伝子が複製を増やし永く残るための装置が個体である、という観点です。一つの個体には、多数の遺伝子の集合が乗り合わせています。個体という装置には耐用年数があります。遺伝子は、装置が耐用年数に達する前に、自分を増やす装置を新たに生産して乗り換えなくてはなりません。これが生殖です。新たな乗り物は、それまでの乗り物と全く同じでも良いですが、別な遺伝子との組み合わせによる新デザインを試してみることで「より良い」乗り換えができる可能性があります。前者が単為生殖、後者が有性生殖ですね。
何をもって「良い」乗り換えというか…それは、遺伝子が増えて永く残る可能性が高い、ということに尽きます。遺伝子が繁栄するかどうかは、その遺伝子の性質だけでなく、個体に同乗する遺伝子との組み合わせにも依存します。ダメな遺伝子と一緒になると、生存の確率が減るでしょう。例えば、多くの動物は速く走れるほど生存確率が高くなりますので、高性能の筋組織を作る遺伝子と同乗できた遺伝子は幸運なわけです。また、相性もあります。鋭い牙を作る遺伝子は肉の消化酵素を分泌する遺伝子とは相性がいいでしょうが、地面に根をしっかりと張る遺伝子とは相性が良くないでしょう。ここで言う相性も、一緒になることで増えて永く残る可能性が高くなる、という意味です。
生物は遺伝子の乗り物に過ぎず、その一生は遺伝子が増えるための過程であり、生殖は遺伝子の乗り換えのため、有性生殖は遺伝子の新たな組み合わせを試すための「席替え」である…これが、Richard Dawkinsが "The Selfish Gene " (邦訳:「利己的な遺伝子 」)という著書で分かりやすく述べていることです。
Dawkinsが述べている、遺伝子と並ぶもう一つの自己複製子「ミーム」について、次回に説明します。(この項つづく) 

Posted: 日 - 10月 9, 2005 at 07:00 PM      コメントを読む/書く


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