ノーベル物理学賞にまたも電波天文学今年度のノーベル物理学賞
が発表された。COBE衛星
で宇宙背景放射のスペクトルを高精度に測定したJohn
Cromwell
Mather博士と、宇宙背景放射の温度ゆらぎを初めて検出したGeorge
Fitzgerald
Smoot博士の二人に授賞されることになった。おめでとうございます。
■宇宙背景放射とは ビッグバン宇宙論の証拠です。宇宙は誕生時には非常にエネルギー密度が高く、放射で満ちあふれる「火の玉」状態でした。宇宙が膨張するにつれ火の玉は冷え、ビッグバンから約40万年後には3000℃にまで冷えます。この温度になると放射より物質のエネルギー密度が卓越し、電離状態にあったプラズマは結合して水素原子になり、宇宙は晴れ上がります。この、火の玉と晴れ上がりの境界を見ているのが、宇宙背景放射です。宇宙背景放射は約3000℃の火の玉なのですが、私たちは宇宙膨張によって遠ざかりつつある宇宙背景放射を見ているので、赤方偏移 (z=1088) によって見かけの温度は1/1089に低下し、2.7 K (摂氏マイナス270℃)の放射に見えます。宇宙背景放射はGeorge Gamowらによって予言され、1964年にArno PenziasとRobert Wilsonによって電波望遠鏡で発見されました(1978年のノーベル物理学賞)。 ■COBEの発見の何がすごいのか ・宇宙背景放射のスペクトルが、黒体放射のスペクトルとピッタリ一致することが示されました。ビッグバン宇宙論を強く支持する結果です。 ・スペクトルから温度が測定されます。これが、どの方向でもほぼ2.7 Kと、「一様・等方」の宇宙原理を支持します。 ・ほぼ一様な背景放射ですが、10万分の1度程度の「ムラ」が見つかりました。このムラは、宇宙晴れ上がりの時点において物質の密度がわずかに濃い場所と薄い場所との差を表しています。密度が濃い場所は僅かに重力が大きいので周囲から物質が引力で集まり、さらに密度が高くなります。こうして密度の「ゆらぎ」が成長していくと、やがて最初の星が誕生します。COBEが発見した宇宙背景放射の温度ゆらぎは、天体の「種」の発見なのです。 ・COBEの成果をふまえて、2001年にWMAP衛星が打ち上げられました。WMAPは宇宙背景放射の温度ゆらぎをより細かい解像度で観測し、宇宙の年齢が137億年であること、宇宙のエネルギーのうち通常の物質はわずかに4%しか存在せず、73%はダークエネルギー, 23%はダークマターが占めていること、ダークエネルギーのせいで宇宙膨張はどんどん加速していること、などを明らかにしました。COBEは現代の観測的宇宙論にブレークスルーをもたらしたと言えましょう。 ■電波天文学のノーベル賞に新たな金字塔 今回の受賞は、電波天文学で5件目です。 ・電波干渉計の開発による天体物理学の進展、電波銀河の正体の解明 (Martin Ryle) … 1974年ノーベル賞 ・パルサーの発見 (Antony Hewish) … 1974年ノーベル賞 ・宇宙背景放射の発見(PenziasとWilson) … 1978年ノーベル賞 ・連星パルサーによる重力波放射の検証 (Russel HulseとJoseph Taylor) … 1993年ノーベル賞 ・宇宙背景放射の黒体スペクトルと温度ゆらぎの発見 (MatherとSmoot) … 2006年ノーベル賞 Posted: 水 - 10月 4, 2006 at 09:21 PM コメントを読む/書く |
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HaloScanサーバーの時計狂いは気付いたら直っていました。米国の夏時間が終わったからかな。(2004.12.13記)
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