私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか島村英紀 著「私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか
」を読了。海底地震学の研究者で元北大教授,
元国立極地研究所所長の著者が2006年2月1日に家宅捜索→任意同行→逮捕されて以来、171日に亘って札幌拘置所に拘置され、執行猶予付き有罪判決を受けるまでの精緻な記録文だ。表題の「なぜ逮捕され」の部分つまり事件の真相についてはほとんど触れておらず、著者のホームページを
参照するよう但し書きがある。
本書は「そこで何を見たか」に紙幅を割いている。容疑者/被疑者としての著者が見た拘置所での生活…食事は健康的で悪くない、3畳の独房も調査船のキャビンに比べれば揺れずエンジン音もしないだけまし、希少な社会との窓であるNHKラジオが低俗に走る空虚、「運動」の時間に見る空の青さ…。不自由な拘置所生活を客観的かつ精緻に記録し、「こんな経験はめったにできないから楽しんでやろう」と前向きに捉える著者の精神力の強さに圧倒される。研究者として解脱の域に達していると言えよう。 著者が逮捕された罪状は北海道大学から告発された「詐欺罪」。著者が北大教授だったときにノルウェーのベルゲン大学と共同研究した際の研究費が著者の口座に振り込まれたことで、北大が著者を「業務上横領」で告訴 したことが事件の発端だ。著書によると、北大が外国から研究費を外貨で受け取る窓口がなかったため、事務から個人の口座で受け取るよう指示されたとのこと。検察は私的流用の証拠を見つけられなかったためか罪状を詐欺罪に変更して立件。裁判の中で、ベルゲン大学の共同研究者が「詐欺に遭ったとは思っていない」と証言しているにもかかわらず、判決は有罪。誰も被害者のいない「犯罪」で有罪になる理不尽さと、筆者の淡泊な筆致と強いコントラストを成して深く印象に残った。 大学に所属する研究者として、これはとても他人事ではない。大学の経理に関する規則は文部科学省の省令に定められており、研究方法の進展に対応しきれていない。「国際化」を謳いながら、外国の研究機関から研究費を受け取ることができない上記の例にも見て取れるし、観測装置を外国に持っていって共同研究するときの手続きの煩雑さは身をもって経験している。規則に何も定められていないことを研究者が自腹やリスクを背負う必要も間々ある。このような場合、規則に定めのない処理をすることが問題とされるのだ。 誰も思いつかない発想で知的世界を切り拓こうとする研究者ほど、日本で研究することは危険ということになる。本書は表向きそのような主張はしないが、著者のように立派な研究をしていても逮捕される事実を見て、怖くなった。 Posted: 月 - 3 月 17, 2008 at 06:59 AM コメントを読む/書く |
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HaloScanサーバーの時計狂いは気付いたら直っていました。米国の夏時間が終わったからかな。(2004.12.13記)
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