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生物と無生物のあいだ 



福岡伸一 著「生物と無生物のあいだ」を読了。好奇心を揺さぶる書で、読み始めて3時間、止まることなく一気に読みつくしてしまった。生物は自己複製をするシステムであるが、複製されて安定に存続するのは原子・分子の配列パターンであって、構成する物質は絶えず入れ替わっている。この、川の流れのように物質が入れ替わって安定を保っている状態を動的平衡 (dynamic equilibrium) といい、これこそが「生きている」ことの本質であって静的に安定な (物質が入れ替わらない) 機械との違いである、と著者は説く。生物とは何か、機械との違いは何か、生きているとはどういうことか、という根源的な問いを縦糸に、著者が取り組んだ研究テーマである細胞膜を通した消化酵素の分泌メカニズムの解明への取り組みを横糸にして織り成す、生物学研究現場の迫力が伝わってきます。
確かに、動的平衡があるからこそ、生命という複雑なシステムが物理的・化学的損傷に耐えて自己修復し、安定に存在できるのでしょう。ただ、この観点で考えると、殆ど代謝をしない胞子や種子や卵の状態をどうとらえるのか、疑問が残りました。また、ウィルスは代謝をしないので生物でないのですが、自己複製し(正確には生物に複製させ)て安定な配列パターンを維持しているわけで、動的平衡が安定に存続するために必須な過程なのだろうか、という生物学素人の疑問もあります。とはいえ、わずか777円と3時間ほどでこれだけ思索に耽ることができるの本書はお得で、物理学の眼で生物というシステムを捉える上で大変に参考になりました。
残念なことは、参考文献のページが無いこと。本書を手がかりにより専門的な知見を得ようとするために、ぜひ根拠となる論文や専門書を紹介してほしかったです。 

Posted: 日 - 7月 1, 2007 at 10:19 PM      コメントを読む/書く


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