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宇宙の灯台 パルサー 



柴田晋平著「宇宙の灯台 パルサー 」を読了。パルサー研究の第一線に立つ理論天文学者が、超高エネルギー現象のしくみについて一般向けに説明している、知的興奮を呼び起こす書です。
パルサーとは、電波や光やX線やガンマ線を一定のリズムで点滅する天体で、その正体は大質量星が超新星を起こした後にできる中性子星です。灯台のように点滅するのは中性子星の自転によるもので、普通のパルサーで毎秒1回転程度、速いものだと毎秒700回転に達するものもあります。おまけに、超新星の際に磁力線を中性子星に圧縮したため、1兆ガウスもの磁場を持つ強力な磁石です。強力な磁場を高速回転させると、遠心力で粒子が光速近くまで加速され、ガンマ線を生じ、電子−陽電子ペアを生成し、シンクロトロン放射で電波を発生し…といった現象が起こるのです。
このようなしくみを、基本的な物理過程を身近な現象や簡単な実験で例えていて理解を助けてくれるのが嬉しいです。例えば磁石の回転で発電するしくみをネオジム磁石で実験したり、電子のエネルギー分布を国税庁のデータにある日本人の所得分布と比較したり、回転する磁場による加速を公園の回転遊具で説明したりと、社会的な天文学普及にも尽力されている柴田さんならではの工夫がこらされています。
また、パルサーのしくみにはまだよく分かっていないこともあり、いろいろな仮説を試しているところも赤裸々に認めています。定説となっていることだけでなく、いま試行錯誤している内容を俎上にのせることで、瑞々しい研究の進歩が伝わってくることでしょう。急いで書いたためか、誤字や表記の不一致が散見されるのもご愛嬌。行頭が小さな「っ」だったりするのも、校正の時間が十分でなかったからかしら。 

Posted: 土 - 9月 2, 2006 at 10:26 PM      コメントを読む/書く


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