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風車の見える丘 



旭爪あかね著「風車の見える丘」(新日本出版)を読了。前作「稲の旋律」の続編…というか、脇役だった小林新を主人公に据えて異なる視点で物語をクロスオーバーさせているので、前作を読んでいなくても物語にすんなり溶け込めると思います。
友人たちと夢を語り合った学生時代を卒業し、環境問題に取り組むという理想に燃えて就いた企業の「研究員」の職。利益追求のため測定データの改竄を求められるという現実に直面する自分と、そんな影の面を恋人のゆかりや友人に見せては弱みになると取り繕う自分とのギャップに悩む。やがて研究員の職も辞し、すれ違いで疎遠になってゆくゆかりを追って農家の手伝いを始めるものの、農業指導員を務めるゆかりから「農作業のアルバイトをそんなことのために利用しないで」と突き放される。それでも晋平の手ほどきを受けながら農家として自立していくうちに、ゆかりや友人たちとの関係を振り返り、競争意識をもって嫉妬したり優越感を感じていたことを自覚する。競争心に向き合うことでより深く理解しあえた彼らは…。
「稲の旋律」では全ての物語を往復書簡の文面で語るという文体を用いた著者だが、本作では常体の平文で綴っていて、さらに表現力を増し成長著しいことが感じられる。旭爪さんの著作は、登場人物がお上品で行儀が良すぎるという気もするけど、実体験に基づいてアレンジした物語でリアリティがあります。理想の自分と現実の自分とのギャップに「いったい自分は何をやっているんだろう」と嘆くことの多い私にとって、今回も期待を裏切らない印象的な一冊でした。 

Posted: 火 - 11月 22, 2005 at 10:12 PM      コメントを読む/書く


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