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恐るべき旅路 



松浦晋也著「恐るべき旅路 」を読了。1998年に打ち上げられ火星をめざした探査機「のぞみ」の、計画段階から開発, 設計, 製造, 試験、そして打ち上げを経て運用…そして死に至るまでの壮絶なドキュメンタリーだ。限られた予算や打ち上げ能力のためギリギリまで身を削った設計。その余裕の無さが度重なる不具合を生み、軌道上での重大なトラブルとなって、火星をめざす探査機の前途に立ちふさがる。最も重大な障害は、地球重力圏を離脱するパワー・スイングバイの時に発生した推薬安全弁のひっかかり。十分な推力を得られなかったため、火星周回軌道への投入が不可能になったかと思われた。しかし研究者たちは諦めずに解決策を模索し、地球スイングバイを2回追加するというアクロバットな軌道を見つけ出して、火星到達可能にしてしまう。だがこれによって火星到達は当初予定より4年延びることになる。その長い旅程の途中で襲いかかる太陽フレア。この打撃によって「のぞみ」は言葉を発しなくなり、送信した呼びかけに「うん」と答えることしかできない体になってしまった。それでも諦めずに復帰に向けてコマンドを送り続ける運用グループ。27万人の名前を刻印したプレートを搭載した「のぞみ」がやがて火星に近付き、周回軌道に投入できる最後の期限が迫る…。
「はるか」の運用をしながら「のぞみ」グループの様子を脇で眺めていた身には、あの運用にはこんな背景があったのか、ということを知ることができて興味深かった。「はるか」も成功したはいえ、次から次へトラブルに見舞われたミッションであり、とても他人事とは思えない。「のぞみ」グループの挑戦に心から賛辞を贈りたい気持ちと共に、日本の宇宙科学の構造的な問題について考えさせられる。一読をお奨めします。
それにしても著者の松浦氏の子細に至る取材力には恐れ入る。宇宙開発に関するルポルタージュを数多く著しているが、その中でも宇宙科学についての理解は深い。建設的な批判によって応援してくれるのが嬉しくなります。
細かいことですが、p.169: 「用の東西」は「洋の東西」でしょう。p.189: M-V-1号機 MUSES-B(はるか)の打ち上げ は1997年2月12日の「午後2時40分」ではなく午後1時50分です。p.268: レンジングは衛星に変調信号を送って帰ってくるまでの往復の時間を計測して距離を調べることです。ドップラー効果で速度を測るのはレンジ・レートと呼びます。p.269: 「記録してあるのは、…探査機本体の状態が記録されている」は、主述が対応していません。その他、読点の打ち方が不適切な文が散見されます。 

Posted: 水 - 9月 28, 2005 at 11:46 PM      コメントを読む/書く


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