前日(8月2日)に野辺山宇宙電波観測所のガイダンスで講演したため観測所に宿泊。1h30m頃に起きて朝食を食べようと食堂に行くと、ガイダンス参加者がまだ起きていて話し込んでいた。話の輪に加わりつつ朝食を摂り、ついでに前日の懇親会で余った料理にありつく。行動食用としてサンドイッチやチーズをガメる。2h10m頃出発しようと玄関に向かうとガイダンス参加者からいくつか質問を浴びたので、説明していると出発は2h50m頃になってしまった。 |
防火帯取り付きからの日の出 |
まだ星空の明けぬ下を八ヶ岳に向かって歩き出す。東には月が上っているが、それでも天の川が見えるほど野辺山の空は澄んでいる。国道141号線を越えて県界尾根の取り付きに向かう。八ヶ岳牧場で暗やみの中にケモノの気配!と見ると牛がこっちを見ていて彼らも驚いたようだ。薄明が始まり、足下がはっきりしてきた。林道のゲートを過ぎてしばらく歩いたところで、防火帯の取り付きを過ぎてしまったことに気づく。5h09mにちょうどここで日の出を迎えた。 |
戻って防火帯にたどり着く。胸の高さまで伸びた笹藪には昨日の夕立の雨露がたっぷりと付いており、レインウェアとスパッツで防御しても容赦なく靴の中まで濡れてしまう。5h40mに防火帯の頭までたどり着き樹林帯の中に入っても笹藪のひどさは変わらない。しかも道がどこだかはっきりせず、どこを歩けば薮が少ないのかよくわからない。どこを歩いても同じということでもあるが。 |
歩いてきた防火帯の笹藪 |
どこからともなく鈍い羽音がしたかと思うと黄色と黒の模様をした弾丸が飛んできた。「スズメバチだ!」まずは相手を刺激しないように停止し、レインウェアのフードをかぶって様子をうかがう。遠巻きにしてこちらを警戒しているようだ。早く離れたほうがいいと考え、足早に立ち去る。ところがヤツは付いてくるではないか。行く先に巣があるのか?ヤツらの警戒範囲は巣から100m以内と聞いているので、ともかく100m離れようと速足で進む。気は焦るが薮の中では足下がおぼつかない。ようやく振り切ったと思って息を整えようと立ち止まっていると、何と今度は2匹が向かってくるではないか。大きな羽音をたててフードにぶつかってくるので実に恐ろしい。しかし別の考えが浮かぶ。「ヤツらはスズメバチではなくてアブなのでは?」こんなにしつこく追ってくるのは、巣の防衛というよりは私自身を標的にしているように思える。ともあれ急登を速足で登り続けたのでかなり疲れており、「もう刺されたってしかたない」と開き直ってゆっくりとしたペースで進む。ヤツらは標高2,500mくらいまでまとわりついてきたが、幸い刺されはしなかった。あとから調べたらウシアブというのがスズメバチそっくりらしいが、刺されたらそれなりに痛いそうだ。 |
防火帯は踏み跡もはっきりしない薮漕ぎ |
清里方面の眺め。正面は茅ヶ岳。 |
7h10mに清里からの登山道に合流。私が登ってきた道にはピケが張ってあり、「野辺山側には降りるな」という道標が立っているのに苦笑いする。確かにこのやぶ漕ぎはもうご免だ。野辺山の登山口にはこのような警告標識はないので、入山する人は注意してください。 |
小天狗から権現岳を見上げる |
合流点から少し登ると小天狗で、ここで大休止する。靴から水を捨て、靴下やレインウェアを木の枝に干す。清里側から登ってくるパーティの声が聞こえる。小天狗からしばらくはなだらかな稜線歩き。権現岳や赤岳の稜線が見えるが、だんだんガスが沸いてきた。 |
小天狗から大天狗そして赤岳に続く稜線 |
アブに追われたときに左足のひざを酷使したためか、痛みを感じるようになってきた。引き換えそうかとも思ったが、もうあのやぶ漕ぎやアブはこりごりなので、ゆっくりと脚をいたわりながら赤岳をめざす。徐々に急登となり、小さな縞枯れの樹林帯を越えて8h30mに大天狗到着。ここで赤岳から降りてきた二人組とすれ違う。 |
大天狗にて大休止 |
山頂はもうすぐ! |
大天狗を過ぎてさらに急登を進むと、赤岳山頂小屋がはるか先に見える。やがて山頂直下の壁に取り付き、鎖や梯子が連続する中をよじ登る。かなり体力を消耗しており、2,30歩登っては立ち止まることの繰り返し。ここで単独行のおやじに抜かれる。私より重そうな荷物を背負っているのに、達者なものだ。言うことを聞かない脚にむち打つようにして、10h20mに赤岳山頂に到着した。 |
赤岳山頂小屋前からみた山頂 |
山頂から行者小屋を見下ろす |
山頂にはガスが沸いていて、周囲の山やふもとを見渡すことができない。ときおり阿弥陀岳や横岳が見える程度。数十人でにぎわっており、県界尾根の静かさが嘘のよう。ほとんどの人が美濃戸側から入山していることは、行者小屋からの登山道にたくさんの人影を見ることができることからもわかる。ともかく昼食の準備だ。マカロニをゆでてペペロンチーノソースを掛けたパスタ料理を作り、ゆで汁はトムヤンクンスープにする。あっという間に平らげ、11h10mに山頂を後にする。 |
文三郎尾根の分岐から見上げた阿弥陀岳 |
山行者小屋から赤岳を振り返る |
山頂直下は険しい岩場の下りで、左ひざへの負担で痛みを感じる。下山路ではずっとこの痛みとお友達であったため、景色を楽しむ余裕がなかった。11:35mに文三郎尾根の分岐に到着。行者小屋への下りは、最初のうちはザレ場でひざへの衝撃がほとんどないために楽だったが、やがて金網の階段が続くようになり苦痛となった。階段の段差が高いのでひざへの衝撃が大きいのだ。「階段なんて余計なものを付けないでくれ!」などと勝手なことを考える。それにこの階段はところどころ支持と段との溶接部分が破損しており、危険だ。登りとすれ違う時には、同じ段に衝撃が加わらないようにこちらが止まった状態で通り過ぎてもらう。 12h30mに行者小屋到着。大勢の登山客でにぎわっている。赤岳や横岳の岩壁をガスの切れ間から望むことができた。2リットルのポリタンに詰めた水をほとんど飲み干したところなので、ここで給水できるのは助かる。 |
美濃戸山荘へ向けて出発すると、ポツリと雨が降り出した。すぐにレインウェアを着るが、ザックカバーを掛ける頃になって止んでしまった。まあよい。レインウェアを着たまま歩いて着干ししよう。30分くらい歩いて南沢の河原にでたところで、いいかげん暑くなってきたのでレインウェアをしまう。ここまではなだらかな沢沿いの道だったが、下り坂が急になってくるとひざへの痛みが増してきた。もう左足を曲げることができないので、びっこを引くように右足だけで降りるようになってしまった。美濃戸山荘にはコースタイムを大幅に超過して14h50mに到着。 美濃戸口までは車道歩きで、急坂もないので痛んだひざでも普通の速さで歩くことができる。途中赤岳山荘で7歳くらいの女の子が店番をして冷えたトマトを売っていた。「おすすめはどれかな?」と尋ねると「わかんない…けどいちばん赤いの」というので、そのひとつを購入。疲れた体にトマトの酸味が嬉しい。 |
美濃戸山荘前は登山者でにぎわっている。 |
砂ぼこりを上げて走り去る何台もの車の暴力に耐えながら林道を歩いて、15h35mに美濃戸口到着。16h40mの茅野行きバスに乗るつもりだったが、15h50m発の新宿直行バスがあることを知り、空席もあるという。すぐの発車なので美濃戸口で温泉につかる余裕はないが、乗り換えがないのはひざを痛めた身には助かるので切符を購入する。バスは途中渋滞に巻き込まれたようだが、熟睡したので気にならない。19h30m頃新宿に到着。 |
バスの車窓から見た八ヶ岳 |