8合目から見上げる甲斐駒

甲斐駒ヶ岳 黒戸尾根 山行記録

2002年10月13 - 14日


甲斐駒ヶ岳 (2967 m)の黒戸尾根は標高670 m付近から歩き始めて標高差2300 mをひたすら登る魅力的な稜線。これまで甲斐駒には北沢峠を始点として2回登頂したが、ズルしたような気がするし、いずれも山頂はガスで覆われて展望が全く無かった。今回好天が約束された条件で挑戦してみた。

10月13日 高尾6h16m−(中央線)→ 日野春8h21m−(山梨交通バス)→ 横手8h37m → 横手・白須分岐11h40m → 刃渡り13h30m → 五合目小屋14h30m → 七丈小屋15h30m

10月14日 七丈小屋4h20m → 甲斐駒山頂7h00m/7h20m → 駒津峰8h20m → 仙水峠9h00m → 北沢峠9h42m −(芦安村営バス)→ 広河原 −(タクシー)→ 甲府12h30m

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第1日(10月13日)

申し分ない快晴の天気。明日までこの快晴が続くとの予報で、今日山に登らない手は無い。京王線で高尾まで行き、6h16m発の中央線松本行き普通列車に乗る。ザックが網棚にあふれ、登山列車といった風情。混みあっていた列車も塩山でかなりの登山客が下車し(大菩薩嶺をめざすのだろうか)、さらに甲府でもほとんどの人が降りて通常の客層になった。日野春で降りた登山者は私の他に中年男性一人だけで、「甲斐駒ですか?」とホームで話しかけられた。
「ええ、そうです」
「どうやって行きます?」
「バスで横手までいくつもりですけど」
「バスが出ているんですか…タクシーで行こうと思っていたんですけど。何時に着くんですか」
あれ?バスに乗るつもりで日野春に降りたのではないのかしらん。
「8h21mに出て37分位に着きますけど」
改札を出たところにバスが待っていて、中年男性も乗ってきた。
「横手からだとどれくらい時間かかりますか?」
と尋ねてくる。前もって調べておかないのだろうか?
「七丈小屋までコースタイムで7h20mですね」
「竹宇からだと7hなんだけど…20分のロスは痛いなあ。タクシーで行きますワ」
と言い残して発車前にバスを降りてしまった。20分のためにタクシー代(3,000円くらいか)を出せるなんてすごい。

 

横手から眺める甲斐駒

横手から眺める甲斐駒

バスの乗客は私一人だけ。横手からは甲斐駒が目の前にそびえ立つ。標高670mの地点から2967mのあの峰を目指すかと思うとわくわくする。横手駒ヶ岳神社までは車道を歩く。結構立派な神社。

 

横手駒ヶ岳神社

横手駒ヶ岳神社

ここからは山道だが、登り始めはそれほどきつい傾斜でもなく、落ち葉が積もる中の散策といった具合。紅葉の色づきは今一つで、すでにかなり落葉している。ところどころ樹林のすき間から八ヶ岳や奥秩父の峰々を眺め、快調に高度を稼ぐ。
標高1250m付近で、1:25,000地形図に記されたコースから外れて北寄りに道が続いていることに気付く。地形図では稜線を進んで1375m峰を通るはずだが、道は沢に向かって下っている。「道を間違えたか」と不安になったが、「山と高原地図」ではこの巻き道で正しいようだ。「お牧場」という笹の原を通って水場のある沢まで下り、急登をしばらく登ったところで11h40mに横手・白須分岐に到着して竹宇からの登山道と合流した。

 

奥秩父方面の眺め

標高950m付近から奥秩父方面の眺め

石碑のそばで昼食

石碑のそばで昼食

そこから2分ほど登ったところに石碑が建って紅葉の眺めの良い場所があったので昼食にする。餅を軽くあぶったところに麻婆豆腐をかけた怪しげなメニュー。
黒戸尾根は退屈な登りの連続かと思っていたのだが、針葉樹の緑とダケカンバや落葉松の黄葉、それにナナカマドやカエデの紅葉が目を楽しませてくれるし、地蔵岳も見えるようになってきて結構楽しい。韮崎付近の人里をだんだん見下ろすようになって、高度を稼いでいることが実感できる。それに空気が乾燥しているためとても快適。

韮崎方面を見下ろす。

韮崎方面を見下ろす。

黒戸尾根名物の「刃渡り」

黒戸尾根名物の「刃渡り」

やがて富士山もみえるようになってきたと思ったら、黒戸尾根名物の「刃渡り」に1h30mに到達。名前の通り両側がすっぱり切れ落ちた箇所であるが特に怖がる場所でもないようだ。しかし下山後に知ったのだが、翌日この場所で62歳の男性が転落死したそうだ。注意するに越したことはない。眺めは素晴らしい場所で、八ヶ岳や奥秩父が山麓から頂上まで一望できる。刃渡りから20分ほど登ると刀利天狗の祠に到着。ようやく標高2000mを越えたわけだ。黒戸山北面のほぼ平坦な巻き道は登りづくめで疲れた脚には程よい休養となる。

刀利天狗の祠

刀利天狗の祠で休憩

五合目小屋のコルを2h30mに通過。屏風小屋の廃屋が痛々しい。屏風岩を越える箇所はハシゴの連続。よく整備されている。花崗岩の垂直な壁を越える場所も、岩肌に足場が刻んであるので安心して登れる。2262m峰付近で休憩していると、日野春駅で出会った中年単独行者が追いついた。竹宇から登ってきたらしい。
「速いですね。私はバテちゃって…分岐のところまでは調子よかったんですけどね。横手からの道はどうでした?」
「よく整備されていましたよ」
なんて会話を交わす。しばらく一緒の歩調で会話をしながら登っていくが、ハシゴが連続するところで付いてこれなくなったようだ。

合目の屏風小屋廃屋

合目の屏風小屋廃屋

夕日に染まる鳳凰山

夕日に染まる鳳凰山

3h30mに七丈小屋に到着。標高2370mまで1700m登ったことは自信につながる。小屋で幕営の手続きをするが、幕営料300円は安い。テン場は5分ほど登ったところに10張くらいのスペースがあるのだが、すでに4張が設営されている。崖っぷちで鳳凰山の眺めが良い場所に設営。その後3パーティが到着して計8張と結構なにぎわいになった。テントを設営したら夕食だ。アルファ米と海藻をチゲスープにぶち込んだ雑炊。夕陽に染まる地蔵岳を眺めながらの食事はエサの貧相さを補ってくれる。
18hには眠くなってきたのでシュラフに潜り込む。斜向かいのテントでは夫婦げんかのやり取りがうるさい。テントは防音性がほとんどないので筒抜けなのを知らないのだろうか。ラジオを聴きながらウトウトする。NHKの「課外授業ようこそ先輩」をやっていて、宇宙研の的川先生がペットボトルロケットを子供たちに作らせてみるという内容で面白かった。
今晩の宿

今晩の宿


第2日(10月14日)

0h30m頃に寒さで目が覚める。風が出てきて落ち葉がテントに当たる音がする。外を見ると満天の星空。しばしテントの外で眺めてみる。東側の甲府方面の光害をのぞけば6等星は余裕で見える。M31があんなにはっきりと見えるとは素晴らしい。シュラフに戻って少し眠るがやはり寒さで目が覚める。いや、寒いというより空腹なのだ。アルファ米の残りを玉子雑炊にぶち込んだ朝食を早々と摂ると体が温まって眠くなってきた。

甲斐駒東壁

夜明け前の甲斐駒東壁

3h30mに起床。風がさらに強くなっていて、暗やみの中でテントを畳むのにちょっと苦労する。4h20mに出発…と靴ひもを締めようと足元を見ると靴を左右逆に履いているではないか。どうも変だと思った。最初から急登の連続。脚に昨日の疲れがちょっと残っていて調子がなかなかでないのでゆっくりと歩みを進める。やがて東の空が白んできた。奥秩父の稜線には雲がかかっているが八ヶ岳はくっきりと見える。目指す甲斐駒の頂上もよく見える。巨岩の連続する美しい山だ。

8合目には石の鳥居があり、ここをくぐる。こんな高所に石を担ぎ上げるとは、信仰の力とはすごいものだ。8合目には不法ビバークのテントを3張発見。そのうちの一人が大キジを撃っている現場に遭遇してしまった。不謹慎なヤツらだ。

やがて5h56mにご来光。甲斐駒の東壁も朝日に染まる。9合目の剣を刺した岩がよく見える。

 

ご来光

ご来光

 

富士山と鳳凰三山

9合目の大岩。背景は富士山と鳳凰三山

岩場の急登の連続は登るのが楽しいが、心拍数が90を越えそうになるのでゆっくりと進む。やがて北岳も見えてきた。結構雪がついている。ふと気付くと足元にも少し雪が残っている。山ではもう冬支度というわけだ。駒ヶ岳神社本社に6h52mに到着。山頂はすぐそこで、7h00mちょうどに登頂した。

 

駒ヶ岳神社本社

駒ヶ岳神社本社

甲斐駒はこれで3回目の登頂だが、晴天の下では初めて。こんなに素晴らしい展望だったのか。北岳と間ノ岳が雪化粧した姿は本当に美しい。仙丈ヶ岳も目の前に迫る。昨年歩いた仙塩尾根のルートがよく分かる…なんて長いんだ。木曽山脈や飛騨山脈もよく見え、大キレットや槍は簡単に同定できる。八ヶ岳はほぼ常に見えていたので「今さら」というかんじ。北東方面の山頂が長い斜面になっているのは苗場山だろうか。

 

甲斐駒から望む北岳

北岳には雪がついている

 

仙丈ヶ岳

仙丈ヶ岳もよく見える

 

雷鳥に遭遇

雷鳥に遭遇

パノラマ写真を撮っていると雷鳥を発見。こんな晴天の山頂に現れるなんて驚き。冬毛に生え変わりつつある姿を見るのは初めてだ。間近で写真を撮っても逃げる様子がなく残雪をついばむなど泰然としたもの。雷鳥にも会えるとはなんと実り多き山行だろう。

雷鳥の写真その1
雷鳥の写真その2
雷鳥の写真その3
山頂で食事をつくる予定だったが風が強く火を使いたくないので先送りにし、7h20mに下山を始める。花崗岩の砕けたザレ場は脚への衝撃を和らげてくれて降りやすい。行く先の駒津峰方面からはわらわらと大人数の登山者が登ってくる。覚悟はしていたが北沢峠までは大混雑の様子だ。六方石付近から下は中高年登山者の行列とのすれ違いの連続。8h20mに駒津峰に到着し、ここから仙水峠まで急降下。振り返ると甲斐駒の陽を浴びた雄姿。特に摩利支天の白い岩肌と黄葉のコントラストが印象的だ。駒津峰東斜面の紅葉もなかなか見事。

 

駒津峰付近から甲斐駒

駒津峰付近から甲斐駒を振り返る

 

摩利支天

仙水峠からの摩利支天の眺め

 

仙水峠

仙水峠は枯山水の庭園のよう

9h00mに仙水峠到着。ゴーロの谷は両側が紅葉で、谷間を仙丈ヶ岳が埋めている素晴らしい構図。仙水小屋・長衛小屋を通過して9h42mに北沢峠到着。9h45m発の広河原行きバスに間に合った。バス停には大行列で4台のバスは超満員。広河原からは北岳の雄姿が圧倒的。11h02m発のバスに乗ろうとバス停にザックを置き、マルタイ棒ラーメンを作って食する。バスが来る前にジャンボタクシーが「甲府まで2,000円で行くよ」というので8人で乗る。12h30mに甲府到着。12h36m発の八王子行き普通列車で帰る。

 

広河原から見上げる北岳

広河原から見上げる北岳


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初出 : 2002年10月17日, 最終更新日 : 2003年11月29日

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