瑞牆山・金峰山 山行記録2004年1月11 - 12日 金峰山 (2,599 m) は奥秩父の盟主と呼ぶべき秀峰で、森林限界を超えた稜線からは富士山や南アルプス・八ヶ岳などの眺めが楽しめます。瑞牆山 (2,230 m) は、水墨画に描かれるような岩峰群が印象的な山。共に深田百名山に挙げられている人気の山ですが、冬のこの季節は静かな山歩きを楽しめます。厳冬期の山でテント泊してみたい、というチャレンジ精神に駆られて、富士見平をベースキャンプとして、二つの名峰を巡る山行を楽しんできました。 |
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1月11日 武蔵境−(中央線)→韮崎−(山梨交通バス)→ 増富温泉10h25m → 瑞牆山荘12h00m → 富士見平13h00m/13h25m → 瑞牆山14h50m /15h10m → 富士見平16h35m |
寝坊で5h00m武蔵境発の中央線に乗り遅れてしまった。おかげで韮崎7h40m発のバスに乗れないことが決定。次のバスは9h25m発。八ヶ岳や茅ヶ岳の眺めが見事な、韮崎駅構内のパン屋兼喫茶店(ベーカリーカフェとでも呼ぶのかな?)で朝食を摂りながらバスを待つ。観光シーズンなら瑞牆山荘までバスが入るのだが、この時期は増富温泉止まりで、8 kmの林道歩きを余儀なくされるが、渓谷沿いの散歩道でそれなりに楽しい。途中、瑞牆山から金峰山に連なる稜線を眺めることができ、気分は盛り上がる。それにしても雪がほとんど無いように見える。 |
瑞牆山荘からは山道を行く。さすがに残雪はあるものの、ほんの1,2 cmの深さ。日中でもほとんど融けないためか、さらさらとした雪であまり滑らない。稜線の南側斜面の道はほとんど無風状態で、ゆっくり歩くことを心がけていても汗ばんでしまう。今回は荷物も結構重いし…水場が涸れているので持ち上げる計4.2リットルの水、テント、寝袋、テントシート、銀マット、アイゼン、防寒着、EPIストーブとガスカートリッジ2個など、最低限の装備とはいえ冬はどうしても荷物が多い。これをミレーの45リットルザックに詰め込んでいるのは限界に近い。 稜線に出ると強い北風を受けて手がかじかむ。フリースとゴアテックスの手袋重ね着で対応。稜線からは瑞牆山の岩峰が間近に迫る。 |
13h00mに富士見平到着。瑞牆山や金峰山から降りてきたらしいパーティが休憩している。幕営を申し込もうと富士見平小屋の扉を開けるも、小屋番は居らず避難小屋と化している。幕営料金500円という張り紙と料金の投入口があるが、小銭の持ち合せが無かったので千円札を投入。お釣りは心付けですのでお納めください。テントを設営するものの、凍土にペグがなかなか刺さらず難儀する。どうしても刺さらない箇所は石を重しにして対応。 |
ほとんど空身となったザックを背負って、13h25mに瑞牆山に向けて出発。天鳥川の徒渉点までは沢に向けてなだらかに下る。稜線の北側斜面とあって残雪がやや多いが、それでも露岩の方が面積として多いのでアイゼンは不要。天鳥川は氷結していて水流なし。ここから標高差430mの急登が始まる。しばらく氷結した沢筋を進んでから、岩峰の間を縫うように斜面を登る。常緑樹であるシャクナゲの葉が、放射冷却を最小限にするためだろうか、丸まっているのが面白い。振り返ると飯森山 (2,116 m) の脇に富士山が見える。飯森山と目線が同じ高さになれば残り標高差114 mなので、よい目安になる。 |
やがて大ヤスリ岩の麓を過ぎる。高さ30 mはあろうかという、瑞牆山の象徴の岩。この岩を登ってしまう人もいるとか。やがて峠点に着くと道は山頂の北側を巻く。ハシゴ場をこなすと、山頂の岩頭に14h50mに登頂。 |
さすがに素晴らしい眺め。東に見上げる金峰山の稜線がよく見える。明日はあそこを伝って五丈岩の立つ山頂をめざすのだ。西には八ヶ岳の勇姿。逆光の南アルプスもシルエットから甲斐駒, 仙丈, 白峰三山, 鳳凰などがよくわかる。入笠山の奥には御嶽山。北に目をやると浅間山も。 |
大ヤスリ岩と登ってきた道を見下ろすことができる。高度感たっぷりの眺め。寒風の中、テルモスの湯で作ったホットレモンの美味しいこと。体にしみわたる。 |
いつまでもこの眺めを楽しんでいたいのだが、15h10mに下山開始。「冬山における行動停止の時刻」の15時を過ぎているが、このまま山頂にて行動を停止していると生命活動も停止するだろうから、ベースキャンプの富士見平まで戻ろう。天鳥川に着く手前に凍った沢がある。せっかくアイゼンを持ってきたので、試験を兼ねて歩いてみる。すごい、凍った斜面も歯が食い込んでガシガシ登れる。なんて楽しいんだ。アイスクライミングを楽しむ人の気持ちが少し分かった気がする。 |
日が暮れそうになるので遊びも程々にして、富士見平に向かう。天鳥川を過ぎてからの北側斜面からは、瑞牆山の岩峰が夕日に映える。日没直前の16h35mにテントに帰着。テン場には他に一張りがあるだけだ。富士見平小屋からは富士山の方向だけ樹林が伐採されて眺めが良いのは、やはり小屋の営業戦略でしょうか? |
早速夕食を摂って夜に備える。キムチスープに餅と海藻を投入した、いつもの貧相な雑煮であるが、寒さの中ではご馳走だ。湯気がテント内で氷粒となって漂い、昇華して消えるまで数分間にわたってテント内の視界を奪う。温度計付きの腕時計を外して温度を測ってみると、−7.2℃。日没後1時間、それもテント内でこの温度とは、今夜は厳しそうだ。もっともゴアテックス一枚のテントだから、外気温とほとんど温度差が無くて当然なのだが。体が温まったところで防寒着を着込んで寝袋に潜り込む。テントから外を見上げるとさすがに美しい星空。すばるが天頂近くに見え、ぎょしゃ座からふたご, いっかくじゅう, おおいぬ座につながる冬の天の川が淡く光っている。FMラジオで流れていたブルックナーの第4番を聴きながら、テルモスを抱いて眠りに就く。 |
0h30m頃、寒さと空腹で目が覚める。テント内に明かりが差しているのは月が昇ってきたからだ。テント内温度は−7.9℃。それほど気温が変化してない。ペットボトルの水が一部凍り付いている。クッカーに移してコンロで暖め、ペットボトル内の氷を融かす。ついでにスパゲティをミネストローネスープにぶち込んだイタリア風ラーメンで体を温める。寒さの中でこそ知ることのできる温もり。 3h30mに起床。テント内温度は−7.8℃とほとんど変化なし。試しに腕時計をテントの外に放置してみると、−9.8℃。これが最低気温だろう。この時期にしては暖かいほうかな。風もほとんどないし。未着の防寒着1枚分のマージンを残して寒さに耐えることができたのは重要な経験だ。 アタック用に最低限の荷物をザックに詰め込み、テントを残して4h30mに出発。月明かりのおかげでヘッドランプのビーム外もよく見え、歩きやすい。八ヶ岳の大泉清里スキー場や入笠山の富士見パノラマスキー場の明かりが目立つ。中央線沿線の明かりも、ゆらゆらと瞬いている。星よりも麓の街灯のほうが瞬きが激しいということは、沿線の谷に逆転層が形成されているということを示している。下山後にアメダスのデータを調べると、盆地の野辺山 (標高1,350 m)では最低気温が−16℃で、標高1,800 mの富士見平よりずっと低温であった。快晴無風の時には放射冷却で冷気が谷や盆地に溜まるので、稜線では却って気温が高いことがあるが、まさにこのような条件が揃ったらしい。 |
稜線の急登をこなして飯森山の南側を巻くと、大日小屋に向けて緩やかに下る。大日小屋のテン場は開けていて星空の眺めがよく、こと座のベガ(織姫星)が昇ってくるのが見える。大日岩の麓に着く頃に空が白んできた。氷結した岩場でアイゼンを着けた方が安全な場所だが、この先にも樹林帯が続くのでアイゼンなしで慎重に通過する。稜線に出ると積雪が3センチほど。コメツガやシャクナゲの樹林帯を登る。もうすぐ夜明けだ。樹間から見える北岳や仙丈, 八ヶ岳がモルゲンロートに染まり始めた。「素晴らしい…」「美しい…」といった言葉が漏れる。樹間からデジカメで写真を撮る。荷物制限のため、一眼レフ+望遠レンズを持ってこれなかったことが悔やまれる。 |
やがて森林限界を過ぎると千代ノ吹上。山梨側がすっぱりと切れ落ちている、高度感あふれる箇所だが、それほどやせ尾根というわけでもないので危険ではない。山頂の五丈岩が間近に見える…実はまだ50分以上かかるのだが。 |
ここからはアイゼンを着けた方がいいのかも知れないが、露岩が多いので着けなくても危険な箇所は特にない。雪が少ない今年だけの事情であろうが。しかも無風なので、余裕をもって周りの山々の眺めを楽しみながらのんびりと山頂を目指す。南アルプスは上河内, 聖, 赤石, 悪沢・荒川, 塩見, 農鳥, 間ノ岳, 北岳, 仙丈から甲斐駒までが同定できる。入笠山の奥には木曾山脈や御嶽山、八ヶ岳の左には乗鞍岳、蓼科山の右には鹿島槍から白馬岳、そして火打・妙高を望むことができる。浅間山の右には苗場山や谷川連邦、そして金峰山の右には富士山である。乗鞍の左にちらと見える白い稜線は、もしかして白山では?方角は合っている。すごいぞ金峰山!千載一遇の条件でこの稜線を歩くことができたことが、とても幸せで、何かに感謝したい気持ち。 |
山頂に8h20mに到着。無人の山頂だが、すぐに金峰山荘方面から4人のパーティが登ってきた。登頂の喜びを分かち合っている。「富士山きれいだねー」とか「北アルプスも見えるね」などの喜びの声は、全く同感である。シャッターを押すのを頼まれるので応じ、私も撮ってもらう。山頂で出会ったのが楽しそうな人達なのでよかった。山頂でホットレモンとチョコクッキーを堪能する。 |
パーティが下山した後に五丈岩へ登ってみた。途中までは登れるのだが、上段から先は手袋を着けたままでは厳しいのでくじけ、敗退。12年前は若かったなぁ。 |
下りはスリップが怖いのでアイゼンを装着。岩を避け、雪面を選んで歩く。滑らないのはいいが、岩を噛まないように注意が必要で、ちょっと歩きにくい。樹林帯に入るところで、木の根を傷つけたくないのでアイゼンを外す。こんどはスリップしないよう雪面を避けて露岩を選んで歩く。10h40mに大日岩を通過。暑くなってきたのでフリースを脱ぐ。 |
11h35mに富士見平のテントに帰着。テントを撤収する。あれ、ペグの一本がどうしても抜けない。凍り付いたせいだろうか。梃子で無理して抜こうとしたら、プラスチック部分が取れてアルミの棒が地中に残ってしまった。不本意ながら残置するしかない…申し訳ない、夏に抜き取りにきます。そんなことで手間取ってしまい、富士見平出発が12h40mと遅くなってしまった。まずい、増富温泉14h35m発のバスに間に合うには早足で歩かねば。瑞牆山荘への下りで中年の女性を抜かすと、「この先どうやって帰ります?バスですか」と問いかけられる。 |