武蔵境4h43m発の中央線始発列車に乗り、笹子駅6h06m着。この時刻で大月方面が朝焼けで明るく、日が長くなってきたことを実感する。トラックが高速で行き交う国道20号線を歩くのが怖いので、駅北側の裏道を通る。徐々に道が細くなって畑のあぜ道となり、やがて現れた吊り橋は朽ち果てて通行不可。しかし線路に付設された歩道橋で川を渡る。 |
登山口まで林道をひたすら登る。途中、間違った沢筋の道に入り込んで引き返したため30分ほどロスしてしまった。途中の東京電力の変電所では、高圧電流の電線から低周波の音が響いていてちょっと不気味。登山道にたどりつくまで2時間も費やしてしまった。 |
昨夜降雪があったようで登山道は浅く冠雪しており、ルートが分かりづらい。マイナーなコースなので踏み後があまりないし、降雪後に歩いた人がいないので、ルートファインディングに10分以上費やすこともある。氷結した沢を渡る箇所では、冠雪に隠れた氷面を踏んでしまい滑って転倒。地雷原を歩くようだ。つづら折れの急登が始まると積雪は3, 4 cmの深さで頻繁にスリップするのでアイゼンを着ける。所々で樹根が露出しているので、アイゼンで踏まないよう細心の注意が必要だ。道に複数の動物の足跡が見られるが、何だろう。この道は人よりも動物の方が多く歩いていることが分かる。 |
やがて、目指す清八峠から西に連なる稜線を望めるようになってきた。稜線の樹々に霧氷がついて白く輝くのが美しい。その上には下弦の月がぽっかりと。私が歩いている北側の尾根にも日が射し始め、樹々の枝に積もった雪が時折舞い落ちるときにダイヤモンドダストのように逆光に輝く。 |
やがて北面が開けた展望台に到着。空気の透明度はあまりよくないが、大菩薩嶺や金峰山など奥秩父の山嶺が見渡せる。稜線に近づくにつれて道はだんだん急になる。アイゼンのおかげでスリップなく高度を稼げるが、オーバーペースにならないよう自制しないといけない。 |
清八峠に10h05mに到着。三ツ峠の御巣鷹山とその右に富士山が望める。霧氷を期待したのにすでに融けてしまっているのは残念だ。ここからの稜線は雪が少なそうなのでアイゼンを外す。予定より約1時間遅れているので本社ヶ丸はパス。峠から少し登ると清八山頂。富士山の大展望が広がる。西には御坂黒岳から釈迦ヶ岳が連なる。その奥の南アルプスは霞のために微かにしか見えないのがちょっと残念。 |
清八山から三ツ峠に続く稜線を進む。南向きの下りはほとんど雪がないのだが、雪解けで泥道になっていたり、その下に凍土が隠れていたりで油断ならない。この下りで、今日初めて登山者とすれ違う…というところでスリップして左脚を泥で汚してしまった。なんでよりによって人の目前でコケるかなぁ。 |
鞍部には送電鉄塔が建ち、東側の丹沢方面が望める。地図上のルートはそのまま南に直進して1531mピークを通るのだが、そちらには足跡がなく、一方で南東方向に巻くような地図にない道があってそちらには足跡がある。さっきすれ違った二人組のパーティの足跡だろう。1531mピークの巻き道だろうか?好奇心も手伝ってそちらをちょっと偵察。沢に橋がかかるなど整備された道が1450mの等高線に沿って続くが、尾根に出たところで急降下している。巻き道ではなく都留市方面からの登山道なのだろう、と判断して送電鉄塔まで引き返す。約30分のロス。地図に従って稜線を行く。小ピークを三つ通過し、最後の小ピークにてアイゼンを着けて御巣鷹山への急登に備える。 |
急登の取り付きがよくわからず、少し登ってから「あれ、こんな急な崖を登るのかな?」と不安になって一旦取り付きまで引き返すと、追い付いてきた単独の男性に会った。私が右手の等高線沿いに踏み後がある方向を指して「こっちですかね」と言い、男性を先頭に1500mの等高線沿いに南方向へ進んでみる。しかしやがて沢筋に当たるところで踏み後が消えた。引き返して、さっき出会った地点に戻る。「清八峠←→三ツ峠」と書かれたプレートが見つかり、最初に取り付いた急斜面が正解だったと分かる。今日は道をよく間違えるなぁ。 |
男性のペースは速く、どんどん引き離されてゆく。のんびりマイペースで急登をこなすと12h55mに御巣鷹山に到着。NTTの電波塔が建つだけで山頂標識のない、達成感に乏しい山頂である。全天候型センターフィードカセグレンの中継アンテナが複数東, 西, 南方向に据え付けられている。 |
ここでアイゼンを外す。次に向かうは最高峰の開運山。途中、ホーンリフレクタアンテナの中継基地が建つピークを通過。 |
開運山に13h20mに登頂。三ツ峠の最高峰で、山頂標識や方位盤がある。センターフィードカセグレンの中継アンテナ塔や八木アンテナや中継用反射板が林立するのは興醒めだが、アンテナの見本市みたいで電波業界の人間には興味深い。 |
さすがに眺めもよく、南西の富士山は山麓の富士吉田市まで見えて迫力がある。南には芦ノ湖や箱根の山、南東には御正体山とその奥に丹沢の山々。転じて西には河口湖や御坂山塊が望める。ただ、霞んでいるので山座同定の楽しみが半減。南アルプスも見通せるはずなのに今日は無理で残念。中高年の団体が登ってきて混雑し始めたので山頂を後にする。 |
木無山にあるベンチで、屏風岩や富士山を眺めながら食事にしよう。前日にお買い物ができなかったため、ストックにあったマルタイ棒ラーメンと乾燥野菜くらいしか食材を持ってこれなかったが、展望が貧相さを補ってくれる。デザートに伊予柑とドリップコーヒーを堪能する。14h15mに山頂を発つ。 |
山頂付近ですれ違った3人の家族連れから、「今日は天気いいねー」と声をかけられる。 |
三つ峠駅方面への道は屏風岩の下部を通過する。ロッククライミングのゲレンデとして有名な場所で、切り立った岩が延々と続き、あちこちに残置ボルトやシュリンゲが散見される。でも、今日は一人もクライマーが見当たらない。しばらく屏風岩に沿って水平移動した後に、尾根伝いの急降下となる。ゴールの西桂町がはるか下に見下ろせる。道はほとんど乾いているが、残雪やぬかるみや隠れ凍土があちこちにあるので油断ならない。途中に「八十八大師」という、たくさんの石仏が並ぶ場所を通過。この山も信仰の対象になってきたのであろう。九十九折れの道をゆっくりと下る。ヤマガラが飛び交いコゲラが木を啄く音が響く。写真を撮ろうとすると逃げてしまうのは残念。野鳥の撮影は難しいなあ。 |
達磨石に15h45mに到着。少し下るとコンクリートの林道だ。富士急行の三つ峠駅までは延々と3km以上歩かなくてはならないが、途中美しい滑滝のある渓流沿いの散策路があったり、自然公園があったりで退屈ではない。振り返る三ツ峠山の山容は、三つのピークが際立って印象的だ。下暮地の里に降り立つところに山祇神社があるので、無事を感謝して参拝。三つ峠駅には16h32mに到着。大月行きの電車が発車したばかりで、次の列車まで30分待たなくてはならない。待合室でドリップコーヒーを淹れる。居合わせた中年夫婦も三ツ峠山から降りてきたそうで、しばし歓談。駅舎の窓を揺らす強い風は、春一番だということを後で知った。17h02m発の列車で帰途に着く。 |